リチャード・オールディントン

リチャード・オールディントン：詩人、兵士、放浪者の一生

リチャード・オールディントン（1892-1962）は、20世紀イギリスを代表する作家の一人です。詩人としてイマジスト運動を牽引し、小説家、批評家、伝記作家としても活躍しました。その生涯は、激動の時代を反映した複雑さと多様性に満ち溢れています。

イマジズム運動の中心人物

オールディントンは、ポーツマスに弁護士の父を持つ裕福な家庭に生まれました。両親の書庫にあった膨大な古典やヨーロッパ文学に触れ、幼い頃から読書に親しみます。同時に、蝶の収集やハイキング、語学学習など多様な興味を持つ少年期を過ごしました。フランス語、イタリア語、ラテン語、古代ギリシャ語を習得するなど、語学にも秀でていました。

ロンドン大学ドーバー・カレッジに進学しますが、父の事業失敗により学位取得を断念。スポーツジャーナリストとして働きながら詩作を始め、やがてイェイツやデ・ラ・メアら著名な詩人たちと交流を持つようになります。1911年には社交界のホステス、ブリジット・パットモアと交際し、彼女を通じてエズラ・パウンドとヒルダ・ドゥリトル（H.D.）と出会います。H.D.とは1913年に結婚し、1938年まで連れ添いました。

オールディントンは、パウンドが提唱したイマジズム運動の中心人物として活躍しました。簡潔で鮮やかなイメージを重視するイマジズムの詩風は、モダニズム詩への大きな影響を与えました。1914年のイマジスト運動のアンソロジー『イマジストたち』には、オールディントンの作品が全体の3分の1を占めています。彼はH.D.の作品が国際的な評価を得るのを後押しし、彼女の才能を世界に知らしめました。

戦争と苦悩

第一次世界大戦の勃発は、オールディントンの生涯に大きな影を落とします。1916年に兵役につくと、戦場の過酷な現実を目の当たりにし、精神的な苦悩を深めます。塹壕での経験は、彼の後年の作品にも暗い影を落としています。戦後、彼は戦争体験を描いた詩や小説を発表しますが、それらは深い悲しみと絶望に満ちたものでした。代表的な作品である『英雄の死』は、戦争の虚しさや人間の愚かさを鋭く描いた反戦小説として高く評価されています。

戦争は、オールディントンとH.D.の夫婦関係にも大きな負担をかけました。戦争中、二人は離れ離れになり、その間にそれぞれが他の異性と関係を持つようになります。しかし、彼らは1938年に離婚するまで、名目上は夫婦として生活を続けます。

多様な活動と晩年

戦争後、オールディントンは詩作から離れ、小説や批評、伝記執筆に力を注ぎます。伝記作家としては、ウェリントン公爵やD.H.ローレンス、R.L.スティーブンソン、T.E.ローレンスの伝記を執筆。特にT.E.ローレンスの伝記では、ローレンスの同性愛に触れるなど、当時としてはタブーとされた内容を公表し、大きな反響を呼びました。

晩年はフランスで過ごし、1962年に70歳で亡くなります。彼の作品は、生前ソ連で高い人気を博しており、没後も様々な言語に翻訳され、世界中で読まれ続けています。

文学史における位置づけ

オールディントンは、イマジズム運動を代表する詩人として、また戦争体験を鋭く描いた小説家として、そして多様な分野で活躍した作家として、20世紀イギリス文学史に重要な足跡を残しました。彼の作品は、現代社会の問題や人間の内面を深く掘り下げており、現代においてもその文学的価値は色褪せていません。彼の複雑な人生と多様な才能は、多くの読者を引きつけ続けているのです。

主要な作品

『イマジストたち（Des Imagistes）』
『英雄の死（Death of a Hero）』
『ウェリントン公爵：その生涯と業績（A Life of Wellington: The Duke）』
『天才の肖像、しかし…：D.H.ローレンスの生涯（Portrait of a Genius, But…）』
* 『アラビアのロレンス：伝記的調査（Lawrence of Arabia, a Biographical Enquiry）』

参考文献

本文中に記載されている参考文献に加え、多くの評伝や研究論文が出版されています。これらの資料を参照することで、オールディントンの生涯と作品について、より深く理解することができるでしょう。

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