イマジズム

イマジズム：20世紀詩壇を揺るがした革新的運動

イマジズムとは、20世紀初頭のアングロ・アメリカで興った詩の運動です。鮮明で簡潔な言葉を用い、イメージ（写像）の正確な描写を追求しました。ラファエル前派以来最大の英語詩運動とされ、モダニズム文学の出発点の一つとも評されています。しかし、イマジズムは継続的な組織というよりは、共通の理念を持った詩人たちの集まり、いわば「創造的な瞬間の連続」でした。フランスの批評家ルネ・トウパンは、イマジズムを特定の主義主張や詩の流派とみなすのではなく、一時的に共通の原則に同意した少数の詩人のグループと捉えるべきだと述べています。

イマジズム以前の詩壇

20世紀初頭の詩壇は、アルフレッド・テニスンなどのヴィクトリア朝詩の影響を色濃く残していました。アルフレッド・オースティンやステファン・フィリップス、ウィリアム・ワトソンといった詩人たちは、この伝統を受け継ぎつつ創作活動を行っていました。この時代には、トーマス・ハーディの『覇者』、クリスティーナ・ロセッティの遺稿集、その他多くの詩集が出版され、詩は高い人気を誇っていました。しかし、後にノーベル賞を受賞するウィリアム・バトラー・イェイツはアベイ座の戯曲制作に専念し、叙情詩の発表は比較的少なかったと言えるでしょう。

イマジズムの起源と形成

イマジズムの起源は、T.E.ヒュームの詩作に遡ります。1909年、彼の詩がロンドンの詩人クラブによって出版されたことがきっかけとなりました。ヒュームは「現代詩についての講義」という論文を発表し、自由詩や短歌、俳句を取り入れ、詩の冗長性を排除する革新を提唱しました。この詩人クラブには、F.S.フリントという、自由詩やフランス現代詩に造詣の深い詩人・評論家がいました。当初ヒュームの活動に批判的だったフリントですが、後に友人となり、イマジズム運動の形成に貢献することになります。

この頃、日本美術への関心がイギリスでも高まっていました。大英博物館への日本画コレクション寄贈、能楽公演、オペレッタ『ミカド』の人気が、ジャポニスムブームの高まりを示しています。このジャポニスム、そしてF.V.ディキンズによる『百人一首』の英訳などが、イマジストたちの詩作に影響を与えたと言われています。

エズラ・パウンドは、このグループに紹介され、その考えに共鳴します。彼は、アルナウト・ダニエルやダンテといった中世詩人の簡潔な表現に感銘を受けており、イマジズムの目指す直接性や明白さという価値観と合致しました。また、パウンドは日本美術や詩形にも深い関心を抱き、イマジストたちの活動に大きく貢献しました。

フランスの批評家レミ・ド・グールモンは、イマジズムをフランス象徴主義の系譜に位置付けました。パウンドも、ヒュームが象徴主義の影響を受けていることを認めつつ、イェイツやマラルメへのつながりを指摘し、イマジズムの多様な起源を示唆しました。

初期活動と主要詩人

1911年、パウンドはヒルダ・ドゥリトル（H.D.）とリチャード・オールディントンをイマジスト・グループに招きました。彼らはギリシャ詩に傾倒しており、その影響はイマジストの詩作にも見られます。

1912年、パウンドはハリエット・モンローが創刊した詩誌『ポエトリー』にH.D.とオールディントンの詩を発表し、「イマジスト」という名称を用いました。1913年にはパウンドの有名な俳句調の詩「メトロの駅で」が発表され、イマジズム運動の重要なマニフェストとなりました。さらに同年、パウンドは「イマジストのいくつかの禁止事項」を発表し、イマジズムの原則を明確にしました。

イマジストの主要な詩人として、パウンド、H.D.、オールディントン、F.S.フリント、エイミー・ローウェル、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズなどが挙げられます。特に、女性詩人の活躍が目立ったことは特筆すべき点です。

イマジスト詩集と運動の展開

1914年、パウンドは『イマジストたち』というアンソロジーを出版しました。このアンソロジーには、イマジストグループだけでなく、フォード・マドックス・フォードやジェイムズ・ジョイスといった作家も参加しています。しかし、このアンソロジーは大きな成功を収めることはなく、大量の在庫を抱えることになりました。

翌年以降は、エイミー・ローウェルが中心となって『イマジスト詩人選』が出版されました。このシリーズは、パウンドの独断的な編集方針から脱却し、より民主的な編集体制を取っていました。しかし、パウンドはローウェルの編集方針に反発し、このシリーズを「エイミー・ジズム」と揶揄しました。第一次世界大戦の影響もあり、1917年を境にイマジズム運動は終焉に向かいます。

イマジズム以降と遺産

イマジズムは短命に終わったものの、近代英語詩に大きな影響を与えました。オールディントンは、イマジズムの遺産をT.S.エリオットらが引き継いでいくと述べています。しかし、ウォーレス・スティーブンスはイマジズムの欠点を指摘し、客観主義詩へと繋がる流れも生まれました。

イマジズムは自由詩の確立に貢献し、ビート・ジェネレーションやブラック・マウンテン派など、後の詩人たちにも大きな影響を与えました。チャールズ・オルソンの「投射詩論」や、ビート・ジェネレーションの詩人たちの作品には、イマジズムの理念が受け継がれていると言えます。

イマジズムは、その直接性と簡潔さ、イメージの正確な描写という点で、近代詩に多大な影響を与えたと言えるでしょう。多くの詩人にインスピレーションを与え、自由詩という新たな詩形を確立したイマジズムは、20世紀詩史において重要な役割を果たした運動であったと言えるのです。

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