リチャード・ストーン

ジョン・リチャード・ニコラス・ストーン

ジョン・リチャード・ニコラス・ストーン（John Richard Nicholas Stone）は、20世紀イギリスを代表する経済学者の一人です。1913年8月30日に生まれ、1991年12月6日にその生涯を閉じました。彼の最も顕著な功績は、国民経済全体の活動を体系的に捉えるための計算方式、すなわち国民経済計算体系（SNA）の開発に貢献したことです。この革新的な業績と、それに基づく実証的な経済分析の基礎を確立した功績が評価され、1984年にはノーベル経済学賞が授与されました。

生涯

ストーンは1913年、英国の首都ロンドンに生を受けました。学業においては、ケンブリッジ大学に進学し、当初は法律を専攻していましたが、後に経済学へと関心を移しました。ケンブリッジでは、著名な経済学者であるリチャード・カーンやジョン・メイナード・ケインズといった指導者たちの薫陶を受け、1935年に経済学の学位を取得しました。

大学を卒業した1936年から1940年にかけては、証券仲買会社での実務経験を積む傍ら、月刊の統計刊行物への執筆活動も行いました。これは、理論経済学と現実世界の経済活動、そして統計データ分析を結びつける彼のキャリアの萌芽と言えるでしょう。

第二次世界大戦が勃発すると、ストーンは1940年から戦時内閣官房の一員として、戦時下の国民経済統計を作成する任務に就きました。この時の統計作成の成果は、ケインズの支援もあって同年に白書として公刊され、戦時経済政策立案のための重要な基礎資料となりました。

終戦を迎えた1945年、ストーンは母校であるケンブリッジ大学に戻り、新設された応用経済学科の初代学科長に就任しました。その後、1955年には教授に昇任し、1980年まで長きにわたり、主に財政学や会計学の分野で教育と研究に尽力しました。

大学での研究活動と並行して、ストーンは英国の国民経済計算の整備に大きく貢献し、各国の統計間の比較可能性を高めるための調整作業にも携わりました。また、国際連合の統計委員会の中心メンバーとして、1968年に発表された国民経済計算体系、いわゆる「新SNA（68SNA）」の開発にも深く関与しました。これは国際的な経済統計の標準化における画期的な出来事でした。

その長年の功績が認められ、1978年にはナイトの称号を授与されました。そして1980年には、ケンブリッジ大学の名誉教授となり、学界からの高い評価を確立しました。

主な業績

ストーンの経済学への最大の貢献は、国民経済計算体系（System of National Accounts、SNA）の開発と普及です。SNAは、一国の経済活動を、モノ（財・サービス）とカネ（貨幣）、そして一定期間の動きを示す「フロー」とある時点での蓄積を示す「ストック」という多角的な視点から把握するための統合的な統計システムです。

SNAは、産業間の取引関係を示す「産業連関表」、生産・分配・支出といった所得の流れを記録する「国民所得勘定」、資金の借り入れ・貸付の状況を示す「資金循環勘定」、海外との経済取引を示す「国際収支表」、そして資産・負債の残高を示す「国民貸借対照表」といった、相互に関連する様々な経済指標を統合し、体系的に記録することを可能にしました。これにより、国民経済全体の構造や変動をより正確かつ包括的に分析するための強力なツールが提供されました。

ストーンは、特に国際連合の下で開発が進められた「1968年改訂版SNA」の策定において中心的な役割を果たしました。このSNAの開発における指導的な貢献こそが、彼に1984年のノーベル経済学賞をもたらした主要な理由です。

また、ストーンは産業連関表の作成における技術的な問題解決にも貢献しています。特に、生産過程で発生する副産物の処理方法に関する基本的なルールである「ストーン方式」を考案したことでも知られており、この分野での彼の貢献は高く評価されています。

ストーンの研究と貢献は、現代のマクロ経済分析、計量経済学、そして経済政策の立案において不可欠な統計基盤を築き上げました。彼の開発した国民経済計算体系は、世界中の国々で経済状況を把握し、比較するための共通言語として現在も広く利用されています。

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