リチャード・トンプソン (ミュージシャン)

リチャード・トンプソン：英国フォークロック界の巨匠

リチャード・トンプソン（Richard Thompson、1949年4月3日 - ）は、イングランド出身の卓越したミュージシャンであり、ギタリスト、シンガーソングライターです。主にフォークロックの分野で活動し、英国における同分野の重要な存在として知られています。1970年代には妻リンダ・トンプソンとのデュオ「リチャード&リンダ・トンプソン」として活躍し、その後はソロ・シンガーとして多様な音楽アーティストと共演しました。2011年には、音楽への貢献が認められ、大英帝国勲章（OBE）を叙勲しています。

生い立ちと初期のキャリア

ロンドンのノッティング・ヒルで生まれたトンプソンは、スコットランド人の父親の影響を受け、幼い頃から音楽に親しみました。父親はスコットランドヤードの刑事でありながら、アマチュアのギタリストでもあり、ジャンゴ・ラインハルトに影響を受けてギターを始めました。ハイゲートのウィリアム・エリス校在学中には、級友とバンド「Emil and the Detectives」を結成。ロックンロールと父親のジャズやスコットランド音楽のレコードに影響を受け、多様な音楽性を育みました。

18歳でフォークロックバンド、フェアポート・コンヴェンションに加入し、リード・ギタリスト兼ソングライターとしてその才能を発揮。アメリカ人プロデューサー、ジョー・ボイドの目に留まり、バンドはウィッチシーズン・プロダクション&マネージメント・カンパニーと契約。トンプソンは、当初カバーバンドであったフェアポート・コンヴェンションにおいて、卓越したギタリストとしての名声を得るだけでなく、ソングライターとしても頭角を現し始めました。セカンド・アルバム『ホワット・ウィー・ディド・オン・アワ・ホリデイズ』の頃には、その才能は開花し、「Meet on the Ledge」のような楽曲でバンドのサウンドを牽引しました。

しかし、1969年5月、バンドのツアー中に悲劇が襲います。高速道路での交通事故により、ドラマーのマーティン・ランブルとトンプソンのガールフレンド、ジーニー・フランクリンが死亡。バンドは悲しみを乗り越え、新たなメンバーを迎え再出発し、『リージ・アンド・リーフ』や『フル・ハウス』といった名盤をリリース。トンプソンは「クレイジー・マン・マイケル」や「スロース」といった楽曲で、その才能をいかんなく発揮しました。

ソロ活動とリンダとのデュオ

1971年1月、トンプソンはフェアポート・コンヴェンションを脱退し、ソロ活動を開始。1972年4月には、初のソロ・アルバム『ヘンリー・ザ・ヒューマン・フライ』をリリースしましたが、商業的には成功しませんでした。その後、1972年10月に歌手のリンダ・ピータースと結婚。彼女をフロントウーマンとして、新たな音楽の道を歩み始めます。

1974年にリリースされたリチャード&リンダ・トンプソンのファースト・アルバム『アイ・ウォント・トゥ・シー・ザ・ブライト・ライツ・トゥナイト』は、批評家から高い評価を得ましたが、売り上げは伸び悩みました。しかし、続く『ホウキ・ポウキ』や『ポア・ダウン・ライク・シルヴァー』といったアルバムで、独自の音楽性を確立。1982年の『シュート・アウト・ザ・ライツ』は、彼らの代表作として広く知られています。

夫婦は一時、スーフィーのコミュニティに移り住み、宗教的な影響を受けましたが、トンプソンの音楽性は大きく変わることはありませんでした。1977年には音楽活動を再開し、サンディ・デニーのアルバムに参加。その後、ジョー・ボイドのプロデュースでレコーディングを試みましたが、上手くいきませんでした。ジュリー・コヴィントンのデビュー・アルバムへの参加をきっかけに、再びスタジオに戻り、アルバム『ファースト・ライト』を制作。しかし、商業的な成功には至りませんでした。

ソロキャリアの再開と現在

夫婦としての活動を終えた後、トンプソンはソロ・キャリアを再開し、『ハンズ・オブ・カインドネス』などのアルバムをリリース。その後も精力的にアルバム制作とライブ活動を続け、『フィール・ソー・グッド』、『You? Me? Us?』、『ドリーム・アティック』の3枚のアルバムがグラミー賞にノミネート。2015年には『スティル』が自身初の全英トップ10アルバムとなりました。

音楽評論家ニール・マコーミックは、トンプソンを「多才な名人級のギタリストであるとともに、その仕事で知性と暗い感情を燃やす鋭い観察眼を持ったシンガーソングライター」と評しています。アイヴァー・ノヴェロ賞を受賞し、BBCから生涯功績賞を授与されるなど、音楽界への貢献は高く評価されています。また、彼の楽曲「1952 Vincent Black Lightning」は、『タイム』誌の「All Time 100 Songs」リストに選ばれています。

リチャード・トンプソンは、現在も精力的に新しい楽曲の創作とレコーディングを続け、世界中で演奏活動を行っています。彼の音楽は、フォーク、ロック、トラディショナル音楽など、多様な要素を融合させた独自のスタイルで、多くの音楽ファンを魅了し続けています。

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