リチャード・ドーソン (民俗学者)

リチャード・マーサー・ドーソン：アメリカ民俗学の父

リチャード・マーサー・ドーソン（Richard Mercer Dorson、1916年3月12日 – 1981年9月11日）は、アメリカ合衆国の民俗学者、著作家、そしてインディアナ大学民俗学研究所の所長を務めた著名な大学教授です。彼は、「アメリカ合衆国の民間伝承の父」とも称され、民俗学研究に大きな影響を与えました。

生涯と学歴

1916年、ニューヨーク市で裕福なユダヤ人の家庭に生まれたドーソンは、名門フィリップス・エクセター・アカデミーを経てハーバード大学に進学し、歴史学を専攻しました。ハーバード大学では、A.B.、M.A.を取得後、1942年にアメリカ文明史に関する学位論文でPh.D.を取得しました。

卒業後は、1943年からハーバード大学で歴史学の教員として教鞭を執り、1944年にミシガン州立大学へ移籍。歴史学と民俗学分野の教授として教鞭をとるとともに、民俗学委員会の委員長としても活動しました。1957年にはインディアナ大学へ移り、亡くなるまで教鞭を執りました。

1963年にインディアナ大学ブルーミントン校に民俗学研究所が創設されると、初代所長に就任。1978年には、民俗学学部の初代座長となりました。

研究内容と業績

ドーソンの研究は、民俗学の分野に大きな影響を与えました。彼は、研究者を「論争者、批判者、現場における収集者、図書館における学究」と捉え、多様な役割を担うべきだとしました。また、1976年には「アメリカ合衆国において、民俗学ほど誤解されている学問分野はない」と指摘し、民俗学の正しい理解を訴えました。

ドーソンは、現代の民俗学研究で広く用いられるようになった「都市伝説」という言葉を生み出しました。これは、「実際には決して起こっていないのに、事実として語られる話」を意味します。また、ジェームズ・スティーヴンスとの論争を通じて「フェイクロア」という概念を提唱しました。ドーソンは、スティーヴンスの著書『ポール・バニヤン』やベンジャミン・A・ボトキンの著作を、「本物の口承伝統だと主張するが、大衆向けに調整された合成物」であり、「民衆を誤解させ、騙すもの」として批判しました。

ドーソンのフィールドワークは、ミシガン州のアフリカ系アメリカ人の民間伝承や、ミシガン州アッパー半島の民間伝承、アメリカ各地の地域的な民間伝承、日本の民間伝承など、多岐にわたりました。その学術的業績は高く評価され、1946年にアメリカ文明史分野におけるアメリカ議会図書館賞を受賞。さらに、グッゲンハイム・フェローに3度選ばれました（1949年、1964年、1971年）。2003年には、ミネソタ州立大学から「ヘリテッジ賞」が追贈されています。

収集資料と著作

ドーソンに関連する資料は、インディアナ大学のリリー図書館に収蔵されており、フィールドワークで集められた音源は、インディアナ大学の伝統音楽アーカイブに所蔵されています。

彼は、数多くの著作を執筆しただけでなく、1963年から1979年まで、シカゴ大学出版局から出版された『Folktales of the World』シリーズの編集も担当しました。

主な著作:

1939: Davy Crocket, American Comic Legend
1946: Jonathan Draws the Long Bow
1950: America Begins
1952: Bloodstoppers and Bearwalkers
1953: American Rebels: Personal narratives of the American Revolution
1956: Negro Folktales in Michigan
1958: Negro Folktales from Pine Bluff, Arkansas, and Calvin, Michigan
1959: American Folklore
1961: American Folklore and the Historian
1961: Folk Legends of Japan
1961: Folklore Research Around the World: A North American Point of View
1964: Buying the Wind: Regional Folklore in the United States
1967: American Negro Folktales
1968: Peasant Customs and Savage Myths: Selections from the British Folklorists
1969: British Folklorists: A History
1971: American Folklore and the Historian
1972: African Folklore
1972: Folklore and Folklife: An Introduction
1973: America in Legend
1973: Folklore and Traditional History
1974: Folklore in the Modern World
1976: Folklore and Fakelore: Essays toward a Discipline of Folk Studies
1981: Land of the Millrats
1983: Handbook of American Folklore

リチャード・マーサー・ドーソンは、その生涯を通じて民俗学の発展に尽力し、現代の民俗学研究に多大な影響を与えた偉大な学者として、その名が記憶されています。

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