リチャード・ホフスタッター

リチャード・ホフスタッター（Richard Hofstadter）

リチャード・ホフスタッターは、アメリカの著名な政治歴史家であり、大きな影響を及ぼしました。彼は1916年8月6日にニューヨーク州バッファローに生まれました。ユダヤ系の父とドイツ系の母の間に育ったホフスタッターは、1933年にバッファロー大学に入学し、哲学と歴史を学びました。この時代、アメリカは大恐慌の影響下にあり、その重苦しい社会情勢が彼の知的探求心を刺激しました。ホフスタッターは大学在学中に青年共産主義同盟に参加し、左翼の女子学生フェリス・スウェイドスと出会い、1936年に結婚します。

彼はその後、コロンビア大学に進学し、修士号と博士号を取得しました。1938年には「義務感」に駆られてアメリカ共産党に入党しますが、1939年のソビエト・ドイツ不可侵条約の結果、彼はアメリカ共産党やマルクス主義全般に対して幻滅を味わいます。しかし、資本主義に対する反感は彼の死ぬまで続きました。

ホフスタッターは、ブルックリン大学、ニューヨーク市大学、メリーランド大学で教授として教え、最終的には母校のコロンビア大学でアメリカ史を担当しました。彼の最も著名な業績は、1956年に発表した『改革の時代』と、1963年に発表した『アメリカの反知性主義』であり、これらはどちらもピュリッツァー賞を受賞しました。不幸にも、彼は晩年に18世紀から現代までのアメリカ史を包括的に論じる大作を計画していましたが、白血病により早逝したため、その実現には至りませんでした。

史学の特徴

ホフスタッターの歴史解釈のスタイルは、アメリカの歴史学の中で与論解釈（Consensus-approach）として知られる最初の例の一つとして位置づけられています。彼は、当時進歩的で急進的な歴史解釈の多くが、経済的利害によって政治現象を説明する方法に対して異議を唱えていました。彼は、チャールズ・ビアードのようなマルクス主義的な唯物史観を批判し、歴史的出来事の背後には多様な動機が存在することを強調しました。

例えば、南北戦争の原因に関して、ホフスタッターは単なる経済的対立ではなく、奴隷解放論者たちの宗教的信念や、北部地域に広がる「黒人恐怖」のような社会的要因も重要であると考えました。彼は、アメリカ史が持つ民主主義の伝統は、対立する動機によって形成されるものであり、その結果として忘れ去られた主張や、マッカーシズムのような問題に繋がると説いたのです。後年のホフスタッターは、与論史学の限界を感じ、新たな視座からアメリカ史を再考しようとしていたと言われています。

彼の研究は、幅広いテーマにわたるものの一貫性には欠けていましたが、最大の貢献は「アメリカ史の複雑さを再発見したこと」にあります。彼は、一般書籍や出版物に触れ、当時の社会のさまざまな側面を探求しました。彼の研究成果は、特に伝記的なアプローチで評価され、現代アメリカの政治や知識人、右翼思想の分析にも影響を与えています。

著作

単著

• - 『アメリカの社会進化思想』（Social Darwinism in American Thought, 1860-1915, 1944）
• - 『アメリカの政治的伝統――その形成者たち』（The American Political Tradition and the Men Who Made It, 1948）
• - 『カレッジの時代』（Academic Freedom in the Age of the College, 1955）
• - 『改革の時代――農民神話からニューディールへ』（The Age of Reform: from Bryan to F.D.R., 1955）
• - 『アメリカの反知性主義』（Anti-Intellectualism in American Life, 1963）
• - 『アメリカ政治の偏執的スタイル』（The Paranoid Style in American Politics: and Other Essays, 1965）
• - 『アメリカにおける政党制度の理念』（The Idea of a Party System: the Rise of Legitimate Opposition in the United States, 1780-1840, 1969）
• - 『1750年のアメリカ：社会的肖像』（America at 1750: A Social Portrait, 1971）

共著

• - 『アメリカにおける高等教育の発展と範囲』（The Development and Scope of Higher Education in United States, 1952）
• - 『アメリカにおける学問の自由の発展』（The Development of Academic Freedom in the United States, 1955）

編著・共編著

• - 『アメリカ史における重要な問題：文書記録』（Great Issues in American History: A Documentary Record, 1958）
• - 『アメリカ暴力：文書の歴史』（American Violence: A Documentary History, 1970）

ホフスタッターの作品は、時代を超えて現在においても重要な意義を持ち続けています。彼の学識と洞察は、アメリカ史を理解する上で欠かせないものとなっています。

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