リマウ作戦

リマウ作戦：第二次世界大戦下の悲劇

リマウ作戦は、1944年10月にイギリス軍が実行した、シンガポール港に停泊する日本艦船の爆破を目的とした作戦です。この作戦は、前年のジェイウィック作戦に続く、特殊部隊による敵地での破壊工作の試みでした。

作戦の背景

1944年3月以降、イギリス軍は前回のジェイウィック作戦の成功を受け、イバン・ライアン中佐を指揮官に、シンガポールを再び攻撃目標とする作戦を計画しました。これが「リマウ作戦」です。作戦には、ライアン中佐を含む23人の隊員が参加しました。

リマウ作戦の具体的な計画は、小型の特殊潜水艇を用いて攻撃目標の船舶に吸着爆弾を設置するというものでした。潜水艦でシンガポール近海まで接近した後、潜水艇を運ぶための船を現地で調達する予定でした。

1944年9月14日、ライアン中佐らは潜水艦「ポーパス」でオーストラリアを出発し、9月23日にメラパス島に到着しました。メラパス島で中継基地を設営した後、ライアン中佐らは近海でマレー人のプラウ船を鹵獲し、「ムスティカ」と命名しました。以後、彼らはこの船を使い、現地船を装い移動しました。しかし、メラパス島には無人島と思われていたにも関わらず、ヤシ栽培の島民が住んでおり、彼らから警察に情報が伝わった可能性が指摘されています。

作戦の失敗

10月5日、ライアン中佐は4人の隊員をメラパス島に残し、残りの19人でシンガポールへ向かいました。10月10日、カス島付近で風待ちをしていたところを、水上警察の兵補に発見され、銃撃戦となりました。この銃撃戦で3人のマレー人兵補が死亡しました。ライアン中佐は作戦の中止を決定し、ゴムボートに乗り換えた後、ムスティカ号を爆破・沈没させました。

10月14日、ライアン中佐ら7人がメラパス島へ戻る途中でパンキル島に立ち寄ったところ、島の酋長が日本軍に通報。10月16日、ソレ島で日本軍の攻撃を受け、ライアン中佐を含む2人が戦死。さらに、10月18日には、別の隊員2人がタパイ島で死亡しているのが発見されました。

10月末までに、残りの隊員18人はメラパス島の基地に戻りました。11月3日には、日本軍の小型軍用機が機体のトラブルで不時着したことをきっかけに、日本軍はメラパス島の捜索を開始しました。その結果、隊員2名が死亡しました。残りの隊員はマプール島に潜伏しましたが、潜水艦との合流に失敗したため、グループに分かれて第2基地を目指しました。しかし、その途上で3人が日本軍との戦闘で死亡し、12月下旬には10人が逮捕されました。最終的に、リマウ作戦に参加した23人のうち、10人が戦死、10人が逮捕、3人が行方不明となりました。

軍律裁判

日本軍は捕虜となった隊員を厚遇しましたが、隊員たちは軍律裁判にかけられることになりました。1945年4月、第7方面軍法務部の神谷春雄少佐は、隊員たちが「偽装裏切り行為」や「スパイ行為」を行ったと結論づけました。そして、隊員たちが軍法会議の決定に従うとしたため、1945年7月3日から軍事法廷が開かれ、全員に銃殺刑が宣告されました。検察官は、隊員たちの勇敢な行動を称賛しましたが、求刑どおり判決が下されました。7月7日、パッシール・パンジャンの森で10人の銃殺刑が執行されました。

戦犯調査とその後

戦後、英軍のワイルド戦犯調査局長は、リマウ作戦に関する調査を行い、日本軍の軍律裁判の記録を入手しました。その結果、裁判に違反は見られなかったとして、オーストラリア陸軍本部は事件をそれ以上訴追しないと決定しました。

オーストラリアの戦略調査団は、作戦に参加した隊員の足取りを調査し、ジェイウィック作戦とリマウ作戦に関する声明を発表しました。戦後、ソレ島で戦死したライアン中佐とロス中尉の遺骸は、軍法会議で処刑された隊員の遺骸とともに、シンガポールのクランジ戦没者共同墓地に移葬されました。また、シンガポールの聖ジョージ・ギャリソン教会内には、ライアン中佐の夫人により記念碑が建てられました。

リマウ作戦は、その悲劇的な結末とともに、第二次世界大戦における特殊部隊の活動の一例として、歴史に刻まれています。

参考文献

ブラッドリー(2001): ジェイムズ・ブラッドリー(著)小野木祥之(訳)『知日家イギリス人将校シリル・ワイルド－泰緬鉄道建設・東京裁判に携わった捕虜の記録』明石書店、2001年8月。
遠藤(1996):遠藤雅子『シンガポールのユニオンジャック』集英社、1996年。
篠崎(1976):篠崎護『シンガポール占領秘録－戦争とその人間像』原書房、1976年。

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