リム・カーワイ

リム・カーワイ：越境する映画監督の軌跡

リム・カーワイ（Lim Kah Wai、林家威）は、1973年7月28日マレーシアのクアラルンプールで生まれた映画監督です。現在は日本の大阪市を拠点に、国際的な視点を持つ作品を制作し続けています。「映画流れ者（シネマドリフター）」を自称し、その足跡はまさに国境を越えた旅そのものです。

学生時代と映画への目覚め

華人としてクアラルンプールで育ち、父親は靴屋、母親はワンタン麺屋という環境で育ちました。マレーシアのマハティール首相が推進したルックイースト政策の影響を受け、1993年に大阪大学基礎工学部へ留学。大学時代に数多くの映画を鑑賞し、シネ・ヌーヴォのCINEMA塾に参加したことが、映画への関心を深めるきっかけとなりました。しかし、大学卒業後は外資系通信会社に6年間勤務。その後、北京電影学院監督コースへ進学し、本格的に映画の道を歩み始めます。

映画監督としてのキャリア

2010年、中国で長編デビュー作『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』を発表。同年、杉野希妃主演・プロデュースの『マジック＆ロス』が釜山国際映画祭でプレミア上映され、ニューヨーク・韓国系アメリカ人映画祭(KAFFNY)ではオープニング作品に選ばれるなど、国際的な注目を集めます。

2012年には、大阪・新世界を舞台にした『新世界の夜明け』を発表。その後、『Fly Me To Minami 恋するミナミ』（2013年）、『COME & GO カム・アンド・ゴー』（2020年）と、大阪を舞台にした作品を次々と発表し、これらは「大阪3部作」と呼ばれています。これらの作品は、大阪の街の多様性とそこに生きる人々の姿を鮮やかに描き出しています。

2016年には、『深秋の愛』が中国全土で公開。2018年からは、『どこでもない、ここしかない』、『いつか、どこかで』、『すべて、至るところにある』（2024年）と、バルカン半島を舞台にした作品群を発表し、「バルカン半島3部作」として知られています。

インディペンデント映画への貢献

リム・カーワイ監督は、自身の作品制作だけでなく、インディペンデント映画の支援にも力を注いでいます。2021年には「香港インディペンデント映画祭」を主催し、香港民主化デモ後に自主製作された政治的な作品などを上映。また、「香港映画祭」ではキュレーターを務め、日本初公開作品を多数上映しました。これらの映画祭は、大阪市のシネ・ヌーヴォをはじめ、京都市の出町座、名古屋市のシネマスコーレなど、全国のミニシアターで開催されています。

2022年には、渡辺紘文監督のロードムービー『あなたの微笑み』に、全国のミニシアターが登場。2023年には、リム・カーワイ監督自身が22館のミニシアターを巡るドキュメンタリー映画『ディス・マジック・モーメント』を発表するなど、ミニシアター文化への貢献も特筆されます。

リム・カーワイ監督の作品は、特定の場所に根ざしながらも、普遍的なテーマを扱い、観る者の心に深く響きます。その越境的な活動は、映画界に新たな風を吹き込んでいます。

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