リュウビンタイ

リュウビンタイ（観音座蓮）とは

リュウビンタイ（学名: Angiopteris lygodiifolia）は、リュウビンタイ科に属する常緑性の大型シダ植物です。その独特な姿から「観音座蓮」という別名でも親しまれています。南方系のシダとして知られ、観賞用として栽培されることもあります。

特徴

リュウビンタイは、その名の通り、まるで竜の鱗のような独特な姿をしています。以下に主な特徴をまとめました。

根茎: 塊状で、周囲に托葉状の襞があります。古いものでは直径30cmを超えることもあります。
葉: 数枚が束になって生え、高さ3mにも達します。放射状に広がり、斜めに開きます。
葉柄: 葉身とほぼ同じ長さで、多肉質で太く、緑色で表面は滑らかですが、白い線状の模様があります。この模様は表皮の下にある細胞間隙に対応しています。
葉身: 広楕円形で、柔らかく肉厚です。二回羽状複葉で、5-10対の羽片を出します。ただし、小さい葉では単羽状複葉の場合もあります。
羽片: 長さ30-70cm、幅10-20cmで、短い柄があり、全体としては披針形をしています。
小羽片: 15-25対あり、長さ5-15cm、幅1-2cmで、披針形をしています。先端は尖り、縁には浅い鋸歯があります。基部には短い柄があります。
葉脈: 分枝しないか、一回分枝しています。細脈は互いに平行に走り、その隙間には鋸歯の底から主軸に向かって途中まで走る偽脈があります。偽脈は縁から主軸の中間付近まで達します。
胞子嚢群: 細脈の先端近くに2列に並び、葉の縁から1mmほど離れた場所にあります。長さは1-1.5mmです。

名前について

学名の種小名「lygodiifolia」は、前半がカニクサ属（Lygodium）に由来し、「カニクサ属の葉に似た」という意味を持ちます。和名については諸説ありますが、正確な由来は不明です。

龍鱗タイ説: 株元の托葉的な鱗片が竜の鱗に見えることから。
竜鬢（りゅうびん）説: 畳表の一種である竜鬢の様子と葉脈の見た目が似ていることから。
竜の鬢説: 托葉状の部分を竜の鬢に見立てたことから。

分布と生育環境

日本では、伊豆半島以西の本州、四国、九州、伊豆諸島、琉球列島、小笠原諸島に分布しています。国外では、中国と台湾に分布しています。

多湿な深い森林の中に生え、特に森林内の斜面や岩の上に見られます。和歌山県では沿岸域に生育地が限られていますが、湿度と照度が保たれた森林内部を好みます。九州南部以南では、山林中で普通に見られます。

分類

リュウビンタイ属の分類は複雑で、種の同定が難しい状況です。世界中に100種以上が記載されていますが、実際に何種存在するか、種の範囲がどこまでなのかは、まだ解明されていません。

過去には、葉の一部しか標本として残されていないことや、標本に基づく新種記載が多数行われたことが、混乱の原因となっています。現在でも分類研究は十分に進んでいませんが、以前よりは進展が見られます。

日本産のリュウビンタイ属は4種に分類されており、リュウビンタイ以外には以下の3種が知られています。

ヒノタニリュウビンタイ (A. fokiensis): 九州南部に稀に産し、葉脈の間に偽脈がないのが特徴です。中国にも分布しています。
ホソバリュウビンタイ (A. palmiformis): 奄美以南の南西諸島に分布し、偽脈が長く、小羽片が細長いのが特徴です。台湾から東南アジアにも分布しています。
オガサワラリュウビンタイ (A. boninensis): 小笠原諸島に固有の種で、ホソバリュウビンタイに似ていますが、偽脈の長さが中間的です。

類似種

リュウビンタイは、その独特な特徴から、他のシダ植物と見間違えることはほとんどありません。特に、大きな胞子嚢が2列に並んだ胞子嚢群や、巨大な葉、多肉質の葉柄などは、他のシダには見られない特徴です。

ただし、小型の株では1回羽状複葉になることがあり、その場合、キジノオシダに似ていると指摘されることがあります。しかし、これはあくまで偶然の一致であり、混同する可能性は低いでしょう。

利用と栽培

リュウビンタイは、観賞用として古くから栽培されており、その姿の見事さには定評があります。新緑色でつやのある革質の葉は、重厚で存在感があり、「古武士のような風格」と評されることもあります。

栽培は、空中湿度を高く保ち、強い光を避けることが重要です。繁殖は、托葉の部分を切り取り、水苔に植えることで可能です。関東以北では冬季に室内に入れる必要がありますが、東海以西の暖地では屋外での栽培も可能です。

また、リュウビンタイは、根茎からデンプンを取り出すこともできます。ブータンでは、救荒植物として利用されています。

保護の現状

リュウビンタイは、環境省のレッドデータブックには指定されていませんが、多くの県で絶滅危惧種に指定されています。これは、分布域の北限にあたる地域での個体数減少が深刻なためです。

減少の主な原因は、森林破壊による生育地の消失と、観賞用としての採取です。特に和歌山県では、野生個体数が激減しており、その理由として園芸用採取が挙げられています。

一方で、三重県のように個体数が比較的安定している地域もあり、地域によって状況が大きく異なることがわかります。天然記念物に指定されている場所もあり、地域によっては保護が進められています。

まとめ

リュウビンタイは、その独特な姿と生態から、古くから多くの人々に愛されてきたシダ植物です。しかし、近年では、森林破壊や採取などによって個体数が減少している地域も少なくありません。リュウビンタイの保護のためには、生育環境の保全と、採取の抑制が求められています。

参考文献

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牧野富太郎、『復刻版 牧野日本植物圖鑑』、(1977)、北隆館
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池畑怜伸、『写真でわかるシダ図鑑』、(2006)、トンボ出版
『園芸植物大事典 2』、(1994)、小学館
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三重県自然誌の会編、『自然のレッドデータブック・三重 ―三重県の保護状重要な地形・地質および野生生物―』改訂版、(1996)、三重県教育文化研究所
紀宝町誌編纂委員会編、『紀宝町誌』、(2004)
熊野市史編纂委員会編、『熊野市史 上巻』、(1983)
高林成年編著、『山渓カラー名鑑 観葉植物［新装版］』、(1997)、山と渓谷社
* 松本定、「ブータンのシダ植物調査」、(2009)：Journal of the Faculty of Agriculture SHISHYU UNIVERSITY vol.45(1) :p.55-65.

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