リュトン

リュトン：古代の聖なる酒器

リュトンは、古代ペルシアからギリシアを含むバルカン半島一帯で用いられた角杯に似た特殊な器です。角や動物の頭部を模した形状が特徴で、上部の大きな注入孔と底部または先端部の小さな流出孔を持ちます。獣角、金属、石、木、陶器など様々な素材で作られました。

概説

リュトンは、単なる角杯とは異なり、底部の動物の口などに開いた小さな穴から液体が流れ出る点に特徴があります。この構造が、リュトンが単なる飲用具ではなく、祭祀的な意味合いを持つことを示唆しています。「角杯型リュトン」という分類も存在しますが、一般的な角杯は上から直接飲むもので、リュトンとは区別されます。

リュトンは主に古代ペルシアや古代ギリシャで、儀式において液体を他の容器に注ぎ分ける際に使用されました。リュトンという名称は、古代ギリシャ語で「流れる」という意味の動詞(ῥυτόν)に由来します。

古代の人々は、リュトンを通った酒やワインには神聖な力が宿ると信じていました。リュトンのモチーフには、当時の星座や都市の守護神の動物が用いられ、人々の誕生月や信仰と結びついていました。そのため、リュトンの儀式的な意味合いは、地域や時代によって大きく異なります。

リュトンの原型は、動物そのものをかたどった水差しのようなものでしたが、角杯で酒を飲む風習と融合し、独特の造形へと発展しました。都市部で酒を振る舞い、交易相手をもてなす中で、様々な文化が混ざり合い、リュトンのデザインも多様化しました。時代が下るにつれ、顧客をもてなすための装飾的な要素が強まり、享楽の目的へと変化していきました。

各国におけるリュトンの儀式性

フェニキア

スペインで発見された「Lady of Galera」と呼ばれる彫像は、フェニキアで作られたと考えられ、リュトンの前身と見られています。古代、交易都市として栄えたフェニキアは、各地でその影響力を見せています。フェニキアでは豊穣の女神アスタルテが祀られており、この彫像はアスタルテ神を模しており、2頭のスフィンクスを従えています。この彫像を通した液体は神聖な力を持つと信じられていました。

古代ギリシャの劇作家アリストパネースは、「ワインは、アフロディーテのミルクである」という言葉を残しています。これは、交易を通じてフェニキアの豊穣の女神アスタルテがアフロディーテと同一視されるようになったことや、当時の儀式から着想を得たものと考えられます。

儀式用のリュトンは、フェニキア以外の国では聖獣や守護神の動物を模したものが一般的ですが、フェニキアのように女神像を模したものは珍しいです。また、同じ国でも、儀式によって使用されるリュトンの種類や意味合いが異なっていたと考えられます。

古代ローマ

古代ローマでは、守護神ラールがリュトンを高々と掲げて酒を給仕する彫像が存在します。詳細な儀式的な意味合いは不明ですが、古代ギリシャやローマの都市では、バッカス神の酒やワインの神聖さを高めるためにリュトンが用いられたようです。

リュトンは、単なる器としてだけでなく、古代の人々の信仰や文化、社会生活を映し出す鏡のような存在でした。その多様な形状や用途は、古代文明の豊かさを示す証と言えるでしょう。

脚注

髑髏杯

外部リンク

MIHO MUSEUM（編） 『リュトン 聖なる酒器 語りかけるいにしえの器たち』 Miho Museum, 2008. ISBN 9784903642024
聖なる酒器リュトン－MIHO　MUSEUM－ - 滋賀ガイド　｢街角情報｣ - 滋賀のイベント・講座・コンサート・商品紹介・スポーツ・サークル・演劇・オペラ・狂言・能（2013年5月1日時点のアーカイブ）
リュトン(リュトン)とは - コトバンク
* 角杯]とは - [コトバンク

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