髑髏杯

髑髏杯（どくろはい）

髑髏杯とは、人間の頭蓋骨を加工して作られた盃のことです。古くから世界各地で、様々な目的で使用されてきました。その歴史は古く、紀元前の遊牧民族スキタイの習俗にまで遡ることができます。

歴史

ヨーロッパ

スキタイ：紀元前8世紀～紀元前3世紀にかけて、現在のウクライナに割拠した遊牧民族スキタイは、近親者や最も憎い敵の髑髏を盃として使用したとされています。
古代ローマ：大プリニウスは、ドニエプル川の北方部族が髑髏杯を使用していたことや、てんかんの治療に髑髏を使った水を飲ませる方法があったことを記録しています。
ランゴバルド王国：567年、ランゴバルド王国のアルボイーノ王は、ゲピド族を虐殺し、ゲピド王クニムンドの頭蓋骨で盃を作って祝いました。
第一次ブルガリア帝国：811年、プリスカの戦いで戦死した東ローマ帝国皇帝ニケフォロス1世の頭蓋骨は、髑髏杯にされて第一次ブルガリア帝国の皇帝クルムに献上されました。
キエフ大公国：971年、キエフ大公のスヴャトスラフ1世は、ペチェネグ族の襲撃で戦死し、その頭蓋骨はペチェネグの首長クリャによって盃にされました。

北欧神話

ヴェルンドの歌：北欧神話の『ヴェルンドの歌』には、ヴェルンドがスウェーデン王ニーズズへの復讐として、王の息子たちの頭蓋骨で盃を作り、王に贈ったという話があります。

中央ユーラシア・中東

イッセドネス人：1世紀のローマの地理学者ポンポニウス・メラは、イッセドネス人が親の葬儀で故人の遺体を食べ、頭蓋骨を盃として使用したと記録しています。
匈奴：紀元前2世紀、匈奴の老上単于は、月氏の王を討ち取り、その頭蓋骨を盃にしました。この髑髏杯は代々受け継がれ、重要な時に使用されました。
高車：516年、高車王の弥俄突は、柔然可汗の醜奴との戦いに敗れ、醜奴によって頭蓋骨を盃にされました。
サファヴィー朝：1510年、サファヴィー朝のシャー・イスマーイールは、シャイバーニー朝のムハンマド・シャイバーニー・ハーンを討ち取り、その頭蓋骨を盃にしました。

インド

ヴェーターラ信仰：インドのヴェーターラ信仰では、髑髏杯に血を注いで捧げ物とします。11世紀の『屍鬼二十五話』にも、髑髏杯で血を飲む鬼の話が含まれています。

中国

戦国時代：『戦国策』によれば、趙無恤が敵である智瑶の頭部を盃にしたという記述があります。
元：元の呉元甫も髑髏杯を常用したと伝えられています。

チベット仏教・ヒンドゥー教

カパーラ：チベット仏教およびヒンドゥー教のタントラでは、カパーラと呼ばれる髑髏杯を宗教儀式に使用します。カパーラは智慧や知識の象徴とされています。

日本

織田信長：織田信長が浅井久政・長政、朝倉義景の髑髏を盃にしたという逸話がありますが、実際には漆を塗ったものであったとされています。
高野蘭亭：江戸時代の漢詩人高野蘭亭は、大館次郎の墓を暴き、髑髏杯を製作したという逸話があります。
徳川光圀：徳川光圀は髑髏杯を所有していたと伝えられています。
今昔物語集：今昔物語集には、天竺で釈迦を脅す天魔の姉妹が髑髏杯を持っているという記述があります。

髑髏杯の意味

髑髏杯は、その使用目的や文化によって様々な意味を持ちます。敵の頭蓋骨を盃にすることは、その敵に対する勝利や征服の象徴であり、先祖の頭蓋骨を盃にすることは、祖先崇拝や家系の継承の象徴であると考えられます。また、宗教的な儀式で使用される髑髏杯は、死と再生、あるいは悟りの象徴として扱われることがあります。

このように、髑髏杯は単なる盃としてだけでなく、文化や信仰、歴史的な背景が色濃く反映された存在として、人々に強い印象を与えてきたのです。

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