リンゴズ・ロートグラヴィア
リンゴ・スターの1976年のアルバム『リンゴズ・ロートグラヴィア』（原題: Ringo's Rotogravure）は、彼のキャリアにおいて新たな章を開く作品として位置づけられます。前作『リンゴ』に続き、元ビートルズのメンバー4人全員が参加したことで、リリース前から大きな注目を集めました。
ビートルズ時代から長年所属したEMI/キャピトルとの契約を終えたリンゴは、1976年春に新たなレコード会社と契約を結びました。イギリスでは自ら設立したレーベル、リング・オー・レコードの配給元であるポリドール・レコードと、アメリカではアトランティック・レコードという新天地でのスタートです。この心機一転の機会に、リンゴは前2作でタッグを組んだリチャード・ペリーではなく、新たなプロデューサーを試すことを決意しました。アトランティックから推薦されたのは、当時副社長を務め、ビージーズなどを手がけて再び脚光を浴びていた社内プロデューサー、アリフ・マーディンでした。リンゴはマーディンとロンドンで会い、共にこの新しいアルバムを制作することを決めました。
レコーディングにあたり、リンゴは自身のソロ作品で成功を収めてきた、友人や音楽仲間に楽曲の提供や演奏での参加を依頼するという手法を踏襲しました。本作には、元ビートルズのジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンはもちろんのこと、旧友のハリー・ニルソン、ピーター・フランプトン、メリッサ・マンチェスター、ドクター・ジョンに加え、エリック・クラプトンといった多彩な顔ぶれが集結しました。セッションは1976年4月、ロサンゼルスにあるザ・サンセット・スタジオで始まり、最終的に6月12日にはチェロキー・スタジオへと場所を移して進められました。
個々の楽曲にも興味深いエピソードがあります。「主夫」として静かな生活を送っていたジョン・レノンは、リンゴのために快く「クッキン」を書き下ろし、レコーディングではリンゴの要望に応じて自らピアノを演奏しました。ポール・マッカートニーは、ウイングスの大規模な全米ツアーの最中でありながら参加を快諾しました。当時の恋人であったナンシー・アンドリュースに捧げた「ピュア・ゴールド」を作曲し、ツアーでロサンゼルスを訪れていた6月19日にスタジオ入りしています。一方、ジョージ・ハリスンは自身のアルバム『33 1/3|33 1_3』の制作に追われており、残念ながらリンゴに新曲を提供したり、セッションに参加したりすることは叶いませんでした。そこでリンゴは、ハリスンが以前から手掛けていた未発表曲「When Every Song Is Sung」の使用許可を得て、これを録音することにしました。「アイル・スティル・ラヴ・ユー」と改題されたこの曲は、ハリスン自身を含め多くのアーティストが完成させられなかった難曲として知られており、リンゴのレコーディングも困難を極めましたが、最終的にプロデューサーのマーディンがシンセサイザーを駆使することで、ようやく形にすることができたといいます。エリック・クラプトンは、ブルース・フィーリング溢れる「これが歌ってものさ」を提供し、自らギター演奏も担当しました。「ラス・ブリサス」は、リンゴがメキシコ訪問中に滞在したホテルの名前が「そよ風」を意味することを知ったナンシー・アンドリュースが綴った詩が元になっています。リンゴは曲の雰囲気に合わせ、ロサンゼルスのメキシコ料理店を巡って探し出したマリアッチ・バンドを起用するという凝った演出を行いました。「レディ・ゲイ」は、イギリスのシンガーソングライター、クリフォード・T・ウォードの既存曲「Birmingham」を改変したもので、タイトルはウォードのヒット曲「Gaye」に由来します。「ロックは恋の特効薬」にはピーター・フランプトンがギターで参加しており、これは当時リンゴのレーベルに所属していたカール・グロスマンの作品です。このほかにも、ルルの弟ビリー・ローリーとの共作「Where Are You Going」や、ハリー・ニルソンとの共作「Party」などが録音されましたが、最終的にアルバム本編への収録は見送られました。
契約当初は6月リリースが予定されていましたが、レコーディングの遅れから、アルバムは1976年9月17日にイギリスで、27日にアメリカで発売されました。アルバムのタイトルである『ロートグラヴィア』とは、グラビア印刷を意味する言葉で、これはリンゴが偶然テレビで観た1948年のミュージカル映画『イースター・パレード』の主題歌の歌詞に触発されたものだといいます。リンゴはアルバムのプロモーションに積極的に取り組み、ヨーロッパ各国や日本を訪問し、メディアのインタビューやテレビ番組に出演しました。特に日本では、ソロとして初の来日を果たし、多くのファンやメディアに迎えられました。
しかし、華やかな参加ミュージシャンや鳴り物入りのリリースにも関わらず、アルバムの商業的な成功は期待されたほどではありませんでした。アメリカでは先行シングル「ロックは恋の特効薬」がビルボードホット100で最高26位を記録しましたが、アルバム自体はビルボード200で最高28位に留まりました。巻き返しを図るべくリリースされた次なるシングル「ヘイ！ベイビー」も、最高74位と低迷しました。イギリスにおいては、さらに反応が鈍く、シングル、アルバム共に主要チャート・インに至りませんでした。
アルバムのアートワークも特筆すべき点が多いです。ジョン・コッシュがアート・ディレクションを手がけ、ジャケット写真はデビッド・アレキサンダーによって撮影されました。リンゴが手にしている虫眼鏡は、撮影中に偶然見つけたものを使ったアイデアだといいます。裏ジャケットには、ビートルズ写真家として知られるトミー・ハンリーが撮影した、当時閉鎖されていたアップル・コアのオフィス入口の写真が採用されました。この入口は、熱心なビートルズ・ファンのメッセージや落書きで埋め尽くされており、その様子が克明に写し出されています。さらに、アルバムの初回出荷分には実際に小さなプラスチック製の虫眼鏡が同梱されており、購入者はこれを使って裏ジャケットの落書きを読み解くことができるという遊び心のある仕掛けが施されていました。見開きの写真はマーク・ハナウアー、インナースリーブの写真はデビッド・アレキサンダーがそれぞれ担当しています。
『リンゴズ・ロートグラヴィア』は、レーベル移籍後の第一弾として、そして豪華なゲスト陣との共演という点で注目を集めたアルバムです。商業的には振るわなかったものの、新プロデューサーとの出会い、多彩な音楽仲間との交流、そして遊び心溢れるアートワークなど、当時のリンゴ・スターの音楽的、個人的な状況が反映された興味深い作品と言えるでしょう。後に1992年にはCDとして再発もされています。
ビートルズ時代から長年所属したEMI/キャピトルとの契約を終えたリンゴは、1976年春に新たなレコード会社と契約を結びました。イギリスでは自ら設立したレーベル、リング・オー・レコードの配給元であるポリドール・レコードと、アメリカではアトランティック・レコードという新天地でのスタートです。この心機一転の機会に、リンゴは前2作でタッグを組んだリチャード・ペリーではなく、新たなプロデューサーを試すことを決意しました。アトランティックから推薦されたのは、当時副社長を務め、ビージーズなどを手がけて再び脚光を浴びていた社内プロデューサー、アリフ・マーディンでした。リンゴはマーディンとロンドンで会い、共にこの新しいアルバムを制作することを決めました。
レコーディングにあたり、リンゴは自身のソロ作品で成功を収めてきた、友人や音楽仲間に楽曲の提供や演奏での参加を依頼するという手法を踏襲しました。本作には、元ビートルズのジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンはもちろんのこと、旧友のハリー・ニルソン、ピーター・フランプトン、メリッサ・マンチェスター、ドクター・ジョンに加え、エリック・クラプトンといった多彩な顔ぶれが集結しました。セッションは1976年4月、ロサンゼルスにあるザ・サンセット・スタジオで始まり、最終的に6月12日にはチェロキー・スタジオへと場所を移して進められました。
個々の楽曲にも興味深いエピソードがあります。「主夫」として静かな生活を送っていたジョン・レノンは、リンゴのために快く「クッキン」を書き下ろし、レコーディングではリンゴの要望に応じて自らピアノを演奏しました。ポール・マッカートニーは、ウイングスの大規模な全米ツアーの最中でありながら参加を快諾しました。当時の恋人であったナンシー・アンドリュースに捧げた「ピュア・ゴールド」を作曲し、ツアーでロサンゼルスを訪れていた6月19日にスタジオ入りしています。一方、ジョージ・ハリスンは自身のアルバム『33 1/3|33 1_3』の制作に追われており、残念ながらリンゴに新曲を提供したり、セッションに参加したりすることは叶いませんでした。そこでリンゴは、ハリスンが以前から手掛けていた未発表曲「When Every Song Is Sung」の使用許可を得て、これを録音することにしました。「アイル・スティル・ラヴ・ユー」と改題されたこの曲は、ハリスン自身を含め多くのアーティストが完成させられなかった難曲として知られており、リンゴのレコーディングも困難を極めましたが、最終的にプロデューサーのマーディンがシンセサイザーを駆使することで、ようやく形にすることができたといいます。エリック・クラプトンは、ブルース・フィーリング溢れる「これが歌ってものさ」を提供し、自らギター演奏も担当しました。「ラス・ブリサス」は、リンゴがメキシコ訪問中に滞在したホテルの名前が「そよ風」を意味することを知ったナンシー・アンドリュースが綴った詩が元になっています。リンゴは曲の雰囲気に合わせ、ロサンゼルスのメキシコ料理店を巡って探し出したマリアッチ・バンドを起用するという凝った演出を行いました。「レディ・ゲイ」は、イギリスのシンガーソングライター、クリフォード・T・ウォードの既存曲「Birmingham」を改変したもので、タイトルはウォードのヒット曲「Gaye」に由来します。「ロックは恋の特効薬」にはピーター・フランプトンがギターで参加しており、これは当時リンゴのレーベルに所属していたカール・グロスマンの作品です。このほかにも、ルルの弟ビリー・ローリーとの共作「Where Are You Going」や、ハリー・ニルソンとの共作「Party」などが録音されましたが、最終的にアルバム本編への収録は見送られました。
契約当初は6月リリースが予定されていましたが、レコーディングの遅れから、アルバムは1976年9月17日にイギリスで、27日にアメリカで発売されました。アルバムのタイトルである『ロートグラヴィア』とは、グラビア印刷を意味する言葉で、これはリンゴが偶然テレビで観た1948年のミュージカル映画『イースター・パレード』の主題歌の歌詞に触発されたものだといいます。リンゴはアルバムのプロモーションに積極的に取り組み、ヨーロッパ各国や日本を訪問し、メディアのインタビューやテレビ番組に出演しました。特に日本では、ソロとして初の来日を果たし、多くのファンやメディアに迎えられました。
しかし、華やかな参加ミュージシャンや鳴り物入りのリリースにも関わらず、アルバムの商業的な成功は期待されたほどではありませんでした。アメリカでは先行シングル「ロックは恋の特効薬」がビルボードホット100で最高26位を記録しましたが、アルバム自体はビルボード200で最高28位に留まりました。巻き返しを図るべくリリースされた次なるシングル「ヘイ！ベイビー」も、最高74位と低迷しました。イギリスにおいては、さらに反応が鈍く、シングル、アルバム共に主要チャート・インに至りませんでした。
アルバムのアートワークも特筆すべき点が多いです。ジョン・コッシュがアート・ディレクションを手がけ、ジャケット写真はデビッド・アレキサンダーによって撮影されました。リンゴが手にしている虫眼鏡は、撮影中に偶然見つけたものを使ったアイデアだといいます。裏ジャケットには、ビートルズ写真家として知られるトミー・ハンリーが撮影した、当時閉鎖されていたアップル・コアのオフィス入口の写真が採用されました。この入口は、熱心なビートルズ・ファンのメッセージや落書きで埋め尽くされており、その様子が克明に写し出されています。さらに、アルバムの初回出荷分には実際に小さなプラスチック製の虫眼鏡が同梱されており、購入者はこれを使って裏ジャケットの落書きを読み解くことができるという遊び心のある仕掛けが施されていました。見開きの写真はマーク・ハナウアー、インナースリーブの写真はデビッド・アレキサンダーがそれぞれ担当しています。
『リンゴズ・ロートグラヴィア』は、レーベル移籍後の第一弾として、そして豪華なゲスト陣との共演という点で注目を集めたアルバムです。商業的には振るわなかったものの、新プロデューサーとの出会い、多彩な音楽仲間との交流、そして遊び心溢れるアートワークなど、当時のリンゴ・スターの音楽的、個人的な状況が反映された興味深い作品と言えるでしょう。後に1992年にはCDとして再発もされています。
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