優しい終身の独裁者

「優しい終身の独裁者」（Benevolent Dictator For Life, BDFL）とは、オープンソースソフトウェア開発プロジェクトにおいて、少数のリーダーに与えられる称号です。

一般的には、プロジェクトの創設者であり、コミュニティ内で議論や論争が発生した際に、最終的な仲裁を行う権利を持つ人物を指します。ただし、「独裁者」という言葉の印象から誤解されがちですが、BDFLはソフトウェアの仕様を一方的に決定する権限を持つわけではありませんし、ソフトウェアの権利を独占しているわけでもありません。あくまで、意見が対立した際に、プロジェクトの方向性を決定する役割を担うのです。

この用語は1995年に、Pythonプログラミング言語の作者であるグイド・ヴァンロッサムを指して使われ始めたのが起源とされています。当時、ヴァンロッサムはCNRIに雇用されており、Python開発とワークショップを監督するためのグループを設立する準備をしていました。その際のメールのやり取りで、ケン・マンハイマーがこの言葉を使用しました。

「優しい終身の独裁者」と混同されやすい言葉に「優しい独裁者」（benevolent dictator）というものがありますが、これはエリック・レイモンドのエッセイ「ノウアスフィアの開墾」で広まった概念です。レイモンドは、オープンソースの特性上、意見が対立した場合、プロジェクトのフォーク（分岐）を招く可能性があるため、リーダーは慈悲深くあらざるを得ないと述べています。BDFLはこの「優しい独裁者」の概念をさらに発展させ、終身という要素を加えたものと言えるでしょう。

「優しい終身の独裁者」とみなされる人物の例

グイド・ヴァンロッサム（Python作者）
リーナス・トーバルズ（Linux作者）
ラリー・ウォール（Perl創始者）
パトリック・フォルカーディング（Slackware作者）
ファビオ・エルクリアーニ（Sabayon Linux作者）
マーティン・ドージャマス（Moodle作者）
マーク・シャトルワース（Ubuntu創設者。自身を「自ら任命した優しい終身の独裁者」と称している）
エイドリアン・ホロヴァティとジェイコブ・カプラン=モス（Django）
ドリース・ボイタールト（Drupal創設者兼リーダー）
ライアン・ダール（Node.js作者）
スティーブ・コースト（オープン・ストリート・マップ創設者）
トニー・ロッケ（Chellow作者）
ラスマス・ラードフ（PHP作者）
まつもとゆきひろ（Ruby作者）
テオ・デ・ラート（OpenBSD創設者）
リッチ・ヒッキー（Clojure作者）
トン・ローセンダール（Blender作者）
ジミー・ウェールズ（ウィキペディア創設者）
* マット・マレンウェッグ（WordPress創設者）

これらの人物は、それぞれのプロジェクトにおいて、創設者であり、かつ最終的な決定権を持つ存在として、プロジェクトの円滑な運営に大きく貢献しています。

BDFLは、オープンソースコミュニティにおけるリーダーシップのあり方を示す一つの例として、その役割と重要性を理解しておくことは有益でしょう。プロジェクトの成功には、技術的な能力だけでなく、コミュニティをまとめ、方向性を示すリーダーシップが不可欠であり、BDFLはその象徴的な存在と言えます。

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