ルイジ・ルーカ・カヴァッリ＝スフォルツァ

イタリアの著名な集団遺伝学者、ルイジ・ルーカ・カヴァッリ＝スフォルツァ（Luigi Luca Cavalli-Sforza、1922年 1月25日生 - 2018年 8月31日没）は、ヒトの遺伝学的特性と人類集団の歴史や文化の関わりに関する革新的な研究で広く知られています。

経歴

カヴァッリ＝スフォルツァ氏は、旧姓をカヴァッリといい、スフォルツァ家は親戚にあたり、後にその姓を相続しました。彼は1944年にパヴィア大学医学部で医師資格を取得しました。研究者としてのキャリアは当初、大腸菌の遺伝学から始まりましたが、第二次世界大戦後にイギリスのケンブリッジ大学へ留学したことが転機となりました。そこで、著名な統計学者であり遺伝学者でもあるロナルド・フィッシャー教授の指導を受け、人類遺伝学の研究へと方向を転換しました。イギリスでの研究を経てイタリアへ帰国し、研究活動と教育に従事した後、1970年にはアメリカ合衆国のスタンフォード大学に移籍し、晩年まで研究の第一線で活躍しました。

研究内容と業績

カヴァッリ＝スフォルツァ氏の研究は多岐にわたりますが、特に人類集団の遺伝的な多様性が、どのようにして地球上の人々の移住や拡散の歴史と結びついているのかを探求した点が画期的でした。彼は初期の研究で血液型の地理的な分布に注目し、これを人類集団の歴史を読み解く鍵として発展させました。

1960年代には、人類集団間の遺伝的な関係性を樹状図（系統樹）として視覚化することを提唱し、そのための方法論として最節約法、最尤法、距離行列法といった解析手法を導入しました。これらの手法は、後に分子進化や系統解析の分野で広く利用される基盤となりました。

さらに彼の研究は、遺伝子レベルでの人類集団の分化が、人間の文化や言語の多様性とどのように相互に関連しているのかという、学際的なテーマへと広がりました。この分野では多くの共同研究を行い、遺伝子、文化、言語の間の共進化の可能性を探求しました。

長年にわたる研究を通じて、カヴァッリ＝スフォルツァ氏は、かつて社会的に広く信じられていた「人種」という概念が、遺伝学的な観点からはほとんど意味をなさないことをデータに基づいて明確に示しました。彼の研究は、「人種」に基づく安易な分類に対して科学的な疑問を投げかけ、人類の多様性をより深く理解するための基礎を築きました。

晩年には、世界中の人々の遺伝情報を収集・分析する「ヒトゲノム多様性プロジェクト（Human Genome Diversity Project, HGDP）」を提唱し、その推進に尽力しました。このプロジェクトは人類の進化と多様性を理解する上で貴重なデータを提供しましたが、一部からは遺伝資源の利用や研究対象となる集団への影響に関して「新植民地主義的である」といった倫理的な懸念や批判も寄せられました。

特定の集団を対象とした研究として、遺伝子情報とバスク語のような言語的特異性を組み合わせて解析することで、集団の独自性や歴史を探求したり、ピグミーのような特定の生活習慣や環境を持つ集団の遺伝子解析を行うことで、多様な人類集団の適応戦略や起源に迫る研究も行われました。

主要な著作・論文

Cavalli-Sforza, L. L., P. Menozzi, A. Piazza. (1994). The History and Geography of Human Genes. Princeton University Press.
Cavalli-Sforza, L. L. and W. F. Bodmer. (1971). The Genetics of Human Populations. W. H. Freeman.
Cavalli-Sforza, L.L. (2000). Genes, Peoples, and Languages. Allen Lane/The Penguin Press. （邦訳：「文化インフォマティックス―遺伝子・人種・言語」）
Cavalli-Sforza, L.L. and Francesco Cavalli-Sforza. (1993). Chi siamo: La storia della diversità umana. （邦訳：「わたしは誰、どこから来たの―進化にみるヒトの「違い」の物語」）

受賞歴

1972年 - トーマス・ハックスリー記念賞
1978年 - ウェルドン記念賞
1987年 - ウィリアム・アラン賞
1999年 - バルザン賞
* 2002年 - メンデル・メダル

カヴァッリ＝スフォルツァ氏の研究は、集団遺伝学のみならず、人類学、歴史学、言語学など広範な分野に影響を与え、現代における人類の多様性理解に不可欠な貢献をしました。

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