トスカ

オペラ『トスカ』について

ジャコモ・プッチーニ作曲のオペラ『トスカ』は、ヴィクトリアン・サルドゥの戯曲を基にした、全3幕からなる作品です。オペラ史において重要な作品とされており、その劇的な展開と美しいアリアは、多くの観客を魅了し続けています。

作品の成立と上演

1900年1月14日、ローマのコスタンツィ劇場で初演されました。台本はルイージ・イッリカとジュゼッペ・ジャコーザが共同で執筆しました。

プッチーニは、1889年にミラノでサラ・ベルナールが演じるサルドゥの戯曲に感銘を受け、すぐに権利取得を試みましたが、一旦は作曲家アルベルト・フランケッティの手に渡ります。その後、フランケッティが作曲を断念したため、プッチーニに作曲が依頼されました。

作曲にあたり、プッチーニは台本作家たちと議論を重ね、時には妥協を迫ることもありました。特に第3幕の「ラテン聖歌」は、プッチーニの強い意向により、わずか18小節の二重唱に短縮されました。3年にも及ぶ困難な共同作業の末、1899年10月に作品は完成しました。

初演は大成功を収め、聴衆からは熱狂的な支持を受けましたが、批評家からの評価は芳しくありませんでした。しかし、その人気は衰えることなく、今日に至るまで多くの劇場で上演され続けています。

楽器編成

フルート3（第2・第3奏者ピッコロ持ち替え）、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、バス・クラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、バス・トロンボーン、ティンパニ、小太鼓、トライアングル、シンバル、タムタム、大太鼓、グロッケンシュピール、チェレスタ、鐘、ハープ、弦五部が使用されます。舞台上では、フルート、ヴィオラ、ハープ、ホルン4、トロンボーン3、鐘、オルガン、小太鼓2、ライフル、大砲が使用されます。

演奏時間

演奏時間は約1時間50分で、各幕の所要時間は第1幕が45分、第2幕が40分、第3幕が25分です。

作品の内容

物語は、画家カヴァラドッシと、その恋人で有名な歌手トスカを中心に展開されます。カヴァラドッシは政治犯の逃亡を助けたために死刑宣告を受け、トスカは彼を救おうと警視総監スカルピアを殺害します。しかし、スカルピアの策略によりカヴァラドッシは処刑され、絶望したトスカも後を追って自殺します。

あらすじ

舞台は1800年6月14日のローマ。ナポレオンが率いるフランス軍がヨーロッパを席巻している時代です。

登場人物

フローリア・トスカ：有名な歌手（ソプラノ）
マリオ・カヴァラドッシ：画家でトスカの恋人（テノール）
スカルピア男爵：ローマ市の警視総監（バリトン）
チェーザレ・アンジェロッティ：前ローマ共和国統領（バス）
スポレッタ：スカルピアの副官（テノール）
堂守：聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会の番人（バリトン）
その他：羊飼い（ソプラノ）、看守、聖歌隊、市民など（合唱）

第1幕

逃亡中の政治犯アンジェロッティは、隠れ家を求めて聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会にやってきます。画家カヴァラドッシは、教会に依頼されたマグダラのマリア像を描いており、そのモデルがアンジェロッティの妹であることを知ります。カヴァラドッシはアンジェロッティを助け、教会に隠します。

そこにトスカが現れ、カヴァラドッシが他の女性と密会しているのではないかと嫉妬します。カヴァラドッシはトスカをなだめ、夜に会う約束をしますが、アンジェロッティの逃亡が発覚し、カヴァラドッシも逃亡を手伝うことになります。

教会では、ナポレオン軍が敗れたという誤報を信じてテ・デウムが歌われます。警視総監スカルピアは教会で不審な点を見つけ、カヴァラドッシとアンジェロッティの追跡を開始します。

第2幕

スカルピアは、ファルネーゼ宮殿で夕食をとりながら、トスカを呼び出します。カヴァラドッシは逮捕され、拷問を受けます。トスカはカヴァラドッシを救うために、アンジェロッティの隠れ家をスカルピアに話してしまいます。

その後、ナポレオン軍が勝利したという知らせが入り、カヴァラドッシは勝ち誇ります。スカルピアは、トスカにカヴァラドッシの命と引き換えに身体を要求します。絶望したトスカは、神に助けを求めます（歌に生き、愛に生き）。そして、スカルピアを刺殺し、通行証を奪って逃亡します。

第3幕

サンタンジェロ城の屋上で、カヴァラドッシは処刑を待っています。トスカは通行証を持って現れ、カヴァラドッシにスカルピア殺害の経緯を話します。二人は愛を確かめ合い、共に逃亡することを誓います（二重唱「新しい希望に魂は勝ち誇って」）。

しかし、処刑は実際に行われ、カヴァラドッシは命を落とします。スカルピアの策略に気づいたトスカは、絶望して城壁から身を投げます。

オペラの傑作としての『トスカ』

『トスカ』は、オペラの代名詞的な存在であり、20世紀最大のオペラ歌手と称されるマリア・カラスも、この作品を何度も演じました。特に1958年のパリ・オペラ座と1964年のコベントガーデンでのトスカ第2幕の映像は、貴重な記録として残っています。

『トスカ』にまつわる逸話

グスタフ・マーラーは、『トスカ』を「最大級の駄作」と評しました。彼は、劇中の過剰な演出や暴力的な描写を批判しました。

備考

オペラ化される10年前に、日本の落語家三遊亭円朝が、サルドゥの原作を翻案した「名人くらべ」を新聞連載しました。
オペラ化される9年前に、福地桜痴により歌舞伎「舞扇恨之刃」が上演されました。
三島由紀夫が、1963年に戯曲版『トスカ』を上演しました。
深水黎一郎のミステリー小説『トスカの接吻』は、オペラ上演中に起きた殺人事件を描いています。
フィギュアスケートの定番曲としても人気があり、多くのアスリートが競技プログラムに使用しています。
ゲーム『Hitman: Blood Money』には、『トスカ』の劇場を舞台にしたミッションが登場します。
佐々木倫子の漫画『動物のお医者さん』には、オペラ『トスカ』を題材としたエピソードが登場します。
映画『007 慰めの報酬』では、オペラ会場で会議を行うシーンで、『トスカ』が上演されています。

外部リンク

トスカの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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