ルクレティア (レーニ)

『ルクレティア』について

『ルクレティア』は、イタリア・バロック期の著名な画家、グイド・レーニが1636年から1638年の間に制作した油彩画です。この作品は、古代ローマの歴史家ティトゥス・リウィウスの著作『ローマ建国史』に登場する女性、ルクレティアを表現しています。美術館における重要な展示物となっており、現在は東京の国立西洋美術館に所蔵されています。

来歴

この作品の依頼者は特定されていませんが、一部の歴史家によると、ボローニャ大司教のジローラモ・ボンコンパーニ枢機卿が所有していた可能性があります。『ルクレティア』が初めて文献に登場したのは1784年のことで、イギリスの領事ジョン・ウドニーがフィレンツェのサルヴィアーティ家から購入した際のことです。この時、ウドニーは同時に他の重要な作品、グエルチーノの『ゴリアテの首を持つダヴィデ』も手に入れました。

作品の解釈

グイド・レーニが描いた『ルクレティア』は、彼女の物語の重要な瞬間を捉えています。リウィウスの記述によれば、王制ローマの末期にルクレティアは王の息子に暴行された後、自分の潔白を証明するために自身の命を絶ちました。この出来事は王政の終焉を引き起こし、ローマ共和制への移行のきっかけとなりました。

ルクレティアの物語は、貞節を象徴する女性として古代から現代まで高く評価されていますが、同時に自殺という行為がキリスト教倫理に反しているため、二重の意味を持っています。本作では、直接的な自害の瞬間を描いてはいませんが、オウィディウスの『祭歴』に記されている彼女の必死の思いを、天を見上げる姿で表現しています。

グイド・レーニのスタイル

レーニは、1620年代以降に神話や歴史をテーマにした官能的な女性像を多く描きました。特に、古代ローマの象徴的な女性たち、クレオパトラやルクレティアは、彼の作品の中で頻繁に取り上げられています。『ルクレティア』もその一例であり、画家の特徴である美しい女性像が見事に表現されています。また、本作は彼のキャリアの後期に制作されたため、初期の色彩明快なスタイルから、より抑制された色調へと変化していることが伺えます。

結論

『ルクレティア』は、グイド・レーニが後期に達成した技術と表現力を示す傑作であり、古代ローマの歴史と繊細な人間の心理を掘り下げた作品です。この絵画は、美術史における貴重な財産として、現在も多くの人々に感銘を与え続けています。

もう一度検索