ルクレティア (ヴェロネーゼ)

『ルクレティア』 - パオロ・ヴェロネーゼの名作

概要

『ルクレティア』、またの名を『ルクレティアの死』は、ルネサンス期のイタリアで活躍したヴェネツィア派の画家パオロ・ヴェロネーゼによる作品です。この絵画は1580年から1583年の間に制作され、油彩で描かれています。現在は美術史美術館に所蔵されており、大公レオポルト・ヴィルヘルム・フォン・エスターライヒのコレクションを経てきました。

伝説の背景

作品のテーマは、古代ローマの伝説に登場するルクレティアという女性の悲劇的な物語です。オウィディウスの『祭暦』やリウィウスの『ローマ建国史』によれば、ルクレティアはルキウス・タルクィニウス・コッラティヌスの妻であり、その貞節な姿勢が評価されていました。当時のローマでは、戦争の真っ只中で、夫のコッラティヌスは戦列に加わっていました。

ある晩、コッラティヌスは友人の王子セクストゥス・タルクィニウスと共に酔いしれ、自らの妻について話し始めます。他の王子たちが自分たちの妻に宴会を楽しませている中、ルクレティアだけが忠実に家を守っている姿が一際目立ちました。この光景に心を奪われたのはセクストゥスだけで、彼は後に彼女を奪いたいという欲望に囚われてしまいます。

悲劇の展開

数日後、セクストゥスは隙を見てルクレティアのもとを訪れ、剣で脅し、強引に関係を迫ります。ルクレティアは初めのうちは抵抗しますが、彼が「姦通の現場を作り、家族の名誉を傷つける」と脅迫され、ついには追い詰められてしまいます。セクストゥスが去った後、彼女は父と夫に真実を告げ、悲劇的な選択をします。自らの手で短剣を胸に突き立て、自殺するのです。この出来事は、ローマの王政を打倒し、共和制への道を開くきっかけとなります。

作品の特徴

この絵画では、ヴェロネーゼが自殺するルクレティアを力強く描いています。彼女の表情は深い悲しみに包まれ、短剣を胸に突き立てた姿が印象的です。うつむいた彼女の目には光がなく、傷口からは血が滴っています。ヴェロネーゼの技法により、この自殺の瞬間は劇的に表現され、悲劇のヒロインが豊かに装飾された姿で描かれています。ルクレティアは鮮やかな緑のブロケードで彩られ、真珠や宝石がふんだんに使われた装飾品を身に着けています。

歴史的背景

『ルクレティア』の来歴は興味深く、大公レオポルト・ヴィルヘルムの美術コレクションに登録されたのは1659年のことでした。その後、1663年にはインスブルックのアンブラス城に移され、1733年にはレアンド・ロバッサーノの作品として再評価されます。その後、1773年にはウィーンのベルヴェデーレ宮殿の帝国コレクションに加えられ、現在に至るまで多くの人々に愛されてきました。この作品は、古代の士族の名誉や女性の貞操を巡る物語を通じて、時を超えたメッセージを持ち続けています。

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