ルドルフ・トイスラー

ルドルフ・ボリング・トイスラー：日本の近代医療の礎を築いた宣教医

ルドルフ・ボリング・トイスラー(1876-1934)は、米国[[聖公会]]の宣教医として来日し、日本の医療近代化に多大なる貢献を果たした人物です。聖路加国際病院の前身となる聖路加病院の創設者であり初代院長を務め、看護教育の改革、医師の海外留学支援など、多岐にわたる活動で日本の医療水準向上に尽力しました。その生涯は、揺るぎない信仰と、人道主義に基づいた行動によって彩られています。

幼少期と医学への道

1876年、アメリカ合衆国ジョージア州で生まれたトイスラーは、幼くして父を亡くします。しかし、深く信仰を持ち、愛情深い母とキリスト教精神を重んじる伯父の愛情を受けて育ちました。バージニア州立医科大学を卒業後、ニューヨーク大学附属ベルビュー病院をはじめ、アメリカやカナダの医療機関で研鑽を積みます。21歳で州立大学の医学専門学校准教授に就任し、病理学と細菌学を専門としました。

日本における医療活動の開始

1900年、妻とともに米国[[聖公会]]の宣教医として来日したトイスラーは、当初、日本語を習得しながら診療活動に従事しました。無料診療や福祉施設への訪問診療などを通して、日本の医療現場の現状を深く理解していきます。そして1901年、東京・築地に聖路加病院（現在の聖路加国際病院）を開設しました。これは、閉鎖されていた築地病院の跡地での再建という形を取っており、英語名は前身と同じくSt. Luke's Hospitalとなりました。

聖路加病院の設立と発展

聖路加病院の設立は、単なる医療施設の建設にとどまりませんでした。トイスラーは、アメリカでの募金活動や日本の財界人からの寄付金を得て、病院の設備充実を図ります。後藤新平、大隈重信、渋沢栄一といった著名人からの支援も得て、病院は急速に発展を遂げました。1917年には、聖路加国際病院へと改称されました。

シベリアでの人道支援

第一次世界大戦中の1918年、トイスラーは米国赤十字社の要請を受け、シベリアへ赴き、傷病兵や市民に対する医療活動に従事しました。医療チームを率いて各地に臨時の救護所を設置し、多くの命を救いました。この経験を通して、トイスラーはアメリカの高度な看護教育システムに触れ、その導入を強く意識するようになります。

子ども難民の救出

シベリア滞在中、トイスラーはウラル山脈に孤立した約800人のロシア人孤児の救出活動にも携わりました。アメリカ赤十字の広報官であるライリー・アレンの協力を得て、神戸の船主、勝田銀次郎氏の貨物船「陽明丸」をチャーターし、孤児たちをアメリカを経由してロシアに送還するという大規模な救出作戦を実行します。この活動は、トイスラーの人道主義精神を象徴する出来事といえるでしょう。

看護教育の改革

シベリアでの経験を踏まえ、トイスラーは日本の看護教育の改革に着手します。聖路加国際病院付属高等看護婦学校（現・聖路加国際大学）を設立し、アメリカから看護教師を招へいして、質の高い看護教育を提供しました。高等女学校卒業者を対象とした入学資格や、3年制の課程に加え、1年間の研究科を設けた4年制専門学校への昇格など、従来の看護教育の枠にとらわれない革新的な取り組みを行いました。

関東大震災からの復興

1923年の関東大震災で聖路加国際病院は大きな被害を受けましたが、トイスラーはすぐに再建に着手しました。アメリカや日本の関係者からの支援を得て、1933年に新しい病院が完成します。建築家アントニン・レーモンドによる設計で、患者や医療従事者にとって快適な環境が整備され、病院の中央にチャペルを設けるなど、トイスラーの理念が反映された建物となりました。

その他の活動

トイスラーは、ロックフェラー財団との協力のもと、日本人医学生のアメリカ留学を支援するなど、日本の医療水準向上に多大な貢献をしました。また、登山家としても知られており、日本アルプスの開拓にも参加しました。

死後

1934年、聖路加国際病院で逝去しました。現在も聖路加国際病院にはトイスラーの胸像が安置され、その功績は高く評価されています。彼の活動は、日本の近代医療の発展に大きな影響を与え、聖路加国際大学をはじめとする医療機関の礎を築きました。彼の精神は、今もなお聖路加国際大学や聖路加国際病院に受け継がれ、多くの医療従事者を育成し、人々の健康を守り続けています。

もう一度検索