ルネ・レイボヴィッツ

ルネ・レイボヴィッツ：新ウィーン楽派の伝道者

ルネ・レイボヴィッツ（René Leibowitz, 1913年2月17日 - 1972年8月29日）は、ポーランドに生まれ、生涯の大部分をフランスで過ごしたユダヤ系の作曲家、指揮者、そして音楽理論家です。第二次世界大戦期にナチスを逃れてフランスに亡命後、パリを拠点に活動を展開しました。彼の最大の功績は、アルノルト・シェーンベルクに始まる新ウィーン楽派、特に十二音技法の作曲理論を西欧全土に広く紹介し、その普及に貢献した点にあります。姓の読み方には、フランス語に準じるレボヴィツやレボヴィス、ドイツ語のライボヴィッツ、英語のリーボウィツなど複数のバリエーションがあります。

初期教育と十二音技法の習得

レイボヴィッツの初期の音楽教育については、長らく不明確な点が多々ありました。かつては多くの音楽辞典でシェーンベルクやアントン・ヴェーベルンに師事したと記されていましたが、近年の研究では、ヴェーベルンから基礎を約2年間学んだに過ぎず、作曲そのものはほぼ独学で習得したとされています。十二音技法への深い理解は、同じくユダヤ系で亡命したエーリッヒ・イトル・カーンがヨーロッパにもたらしたシェーンベルクらの作品を通じて得られたことが判明しています。カーンが若くして世を去った一方、レイボヴィッツが作成した経歴が長く流布したため、彼の初期の師事関係については長い間誤解が生じていました。

理論家・教育者としての活動

レイボヴィッツは理論家、そして教育者として絶大な影響力を持ちました。1947年にパリで開催した国際室内楽フェスティバルでは、新ウィーン楽派の主要作品を網羅的に上演し、これらの作曲家の作品の再評価と普及に決定的な役割を果たしました。彼はハンフリー・サールと共に「セリエル」という用語を広めた一人でもありますが、自身の音楽思想はシェーンベルクの伝統に強く根差し、展開されたトータル・セリエリスムに対しては一定の距離を置いていました。この姿勢は、特にヴェーベルンを強く崇敬するピエール・ブーレーズをはじめとする一部の門人との関係に影響を与え、世間からは彼が「見放された」と評される向きもありました。

彼の著書『シェーンベルクとその楽派』、『十二音技法とは何か』、『十二音音楽入門』などは、第二次世界大戦終結直後の時期、まだ十二音技法が広く知られていなかった世界各国の作曲家や音楽家に大きな影響を与えました。特に日本では、戸田邦雄がサイゴンで『シェーンベルクとその楽派』を入手し、それが日本の現代音楽界に影響を与えたエピソードはよく知られています。

レイボヴィッツの指導を受けた門人は非常に多く、その中にはピエール・ブーレーズ、ハンス・ウェルナー・ヘンツェ、ジャック＝ルイ・モノ、セルジュ・ニグ、ヴィンコ・グロボカール、ミキス・テオドラキス、アンドレ・カザノヴァ、アントワーヌ・デュアメルなど、後に国際的に活躍する作曲家や演奏家が多数含まれています。

指揮者としての側面

レイボヴィッツは卓越した指揮者としても活動し、多くの録音を残しています。特に有名なのは、リーダーズ・ダイジェスト・レコーディングスからリリースされたベートーヴェンの交響曲全集です。この全集は、ベートーヴェン自身が記したメトロノーム記号に可能な限り忠実に従おうとした最初の録音の一つとして、歴史的に重要な意義を持ちます。この解釈は、彼の友人であったルドルフ・コーリッシュの影響を受けたものです。また、リムスキー＝コルサコフ編曲によるムソルグスキーの《はげ山の一夜》の録音では、原曲を大幅に改変し、ウィンド・マシーンなどの効果音まで用いるなど、大胆な解釈を示しました。その他、オッフェンバックのオペレッタやシェーンベルクの《グレの歌》なども録音しています。

批評家・作曲家としての評価

批評家としては、ジャン・シベリウスを「世界最悪の作曲家」と酷評するなど、時に辛辣な意見を表明しました。亡命後のバルトーク・ベーラに対しても批判的な姿勢を見せています。

作曲家としては、彼が急逝するまでに約100曲の作品を残しました。これらの作品の多くは、生前には演奏される機会が少なく、レイボヴィッツ自身も積極的に公表しませんでした。彼は多岐にわたるジャンル（交響曲、協奏曲、舞台作品、室内楽曲、ピアノ曲、声楽曲など）で作曲活動を行いましたが、理論家、教育者、指揮者としての名声に比して、作曲家としての評価はまだ定まっていません。トータル・セリエリスムに進まなかったことが、当時の前衛音楽の潮流から見れば影響を与えた側面もあるかもしれません。しかし、前衛の停滞期以降は、彼の作品の録音が増える傾向にあります。

広範な人脈と文化的交流

レイボヴィッツは、その知的な魅力によって、音楽界だけでなく文学、哲学、芸術界からも多くの人々を引きつけました。ジョルジュ・バタイユ、トリスタン・ツァラ、レイモン・クノー、ミシェル・レリス、ジョルジュ・ランブール、ダニエル＝アンリ・カーンヴェレール、アンドレ・マッソン、モーリス・メルロー＝ポンティ、クロード・レヴィ＝ストロース、テオドール・アドルノといった著名な文化人たちと親交を結びました。これらの人々の中には、レイボヴィッツから作品を献呈された者もいれば、文学者のテクストに彼が曲をつけた例もあります。イスラエルの著名な化学者イェシャヤフ・レイボヴィツは彼の従兄弟にあたります。

ルネ・レイボヴィッツは、新ウィーン楽派の遺産を継承し、次世代に伝える上で極めて重要な役割を果たした人物です。その教育者、理論家、指揮者としての貢献は疑いの余地がありません。作曲家としての評価は今後の研究が待たれますが、彼の多角的な活動は20世紀後半の音楽史において見過ごすことのできないものです。

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