ルノー・アルカナ

ルノーが2019年に市場に投入した「アルカナ」（ARKANA）は、スタイリッシュなクーペとSUVの要素を融合させたクロスオーバーSUVです。その名は、ラテン語で「秘密」や「神秘」を意味する「ARCANUM」に由来する造語とされています。ただし、政治的な背景から、旧ユーゴスラビアの一部地域では「メガーヌコンクエスト」（Mégane Conquest）として販売されています。

特徴と市場による違い

初代モデル（2019年-）は、近年のルノー車に共通する「Cシェイプ」のLEDヘッドライトを特徴としつつ、クーペのように流麗なルーフラインや高い位置にあるウエストライン、そしてSUVらしい高い最低地上高、ワイドなホイールアーチ、大径タイヤ＆ホイールを組み合わせることで、セダン、クーペ、SUVの長所を高次元で融合させた外観デザインを持っています。

内装デザインは、仕向け地によって大きく異なります。特にロシア向けとそれ以外の市場ではデザインが分けられています。多くの市場でApple CarPlayやAndroid Autoに対応するルノー「イージーリンク」マルチメディアシステムが採用されていますが、タッチスクリーンのサイズは、ロシア向けが8インチ、それ以外の市場では9.3インチとなっています。また、デジタルメータークラスターも一部市場で採用されています。

車両のプラットフォームも市場によって異なります。ロシア向けモデルは、ダスターやロシア向けキャプチャーで実績のあるB0プラットフォームを進化させた「B0+プラットフォーム」を採用しており、最低地上高208 mm、アプローチアングル18度、ディパーチャーアングル25度を確保するなど、優れたオフロード性能を備えています。一方、ロシア以外の市場向け、特に欧州や日本向けは、クリオやキャプチャーにも使われているCMF-Bプラットフォームが採用されています。

パワートレインの多様性

パワートレインのラインナップも市場ごとに多岐にわたります。ロシア向けと韓国のXM3（後にアルカナに名称変更）には、ルノーとメルセデス・ベンツが共同開発した1.3 L直噴ガソリンターボ（TCe260）と、1.6 Lガソリン（1.6 GTe）の2種類が設定されました。前者は7速EDC、後者にはエクストロニックCVTが組み合わされています。欧州向けでは、12 Vモーターを備えた1.3 Lターボマイルドハイブリッド（TCe140, TCe160）に加え、1.6 Lエンジンに2モーターを組み合わせた革新的なE-TECHハイブリッド（E-TECH145）が主力となります。特にE-TECHハイブリッドは、F1由来の技術を応用したドグクラッチを介した電動化パワートレインにより、優れた燃費性能（日本仕様WLTCモード22.8km/L）を実現しています。オセアニア市場では1.3Lターボのみ、日本市場ではE-TECHフルハイブリッドとマイルドハイブリッドの2種類のみが提供され、純ガソリンエンジン搭載モデルはありません。

生産と市場の動向

アルカナの生産は、ロシア向けがモスクワのルノーロシア工場で、ロシア以外の仕向け地やXM3は韓国のルノーコリア釜山工場で行われていました。しかし、2022年5月、ロシアのウクライナ侵攻の影響により、ルノーがロシア市場から撤退したため、ロシアでの生産および販売は終了しています。

日本市場への展開

日本市場には2022年春に導入が発表され、同年5月26日に正式発売されました。日本向けモデルはルノーコリア自動車（当時）での生産となり、初期にはE-TECHフルハイブリッドの「R.S.ライン」グレードのみが設定されました。その後、2022年11月にはマイルドハイブリッド仕様「R.S.ラインマイルドハイブリッド」が追加されています。2023年には、専用デザインの「E-TECHエンジニアード」や特別仕様車「アントラクト E-TECH フルハイブリッド」が登場しました。2024年10月にはマイナーチェンジが実施され、新デザインのエンブレムや、ルノーグループのスポーツブランド「アルピーヌ」のエッセンスを取り入れた新グレード「エスプリアルピーヌ」（ハイブリッド、マイルドハイブリッド）が設定されています。日本カー・オブ・ザ・イヤーにおいて、2022-2023年の10ベストカーに選出されるなど、日本でも注目を集めています。

姉妹車 XM3

韓国のルノーサムスン自動車（現ルノーコリア）からは、2020年にアルカナと共通のプラットフォーム（CMF-B HS）を用いた姉妹車「XM3」が発表され、生産もルノーコリアで行われていました。XM3はアルカナとは一部の仕様やパワートレインが異なっていましたが、2024年4月にルノーコリアが社名変更を行ったことに伴い、「アルカナ」に名称が統一されています。

このように、ルノー・アルカナは、そのデザイン性、多様なパワートレイン、そして市場ごとの仕様の柔軟性を持つグローバルモデルとして展開されています。

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