最低地上高

最低地上高：安全な走行のための重要な要素

最低地上高とは、水平な地面から車両の最も低い部分までの垂直距離です。この数値は、車両の設計や走行性能、そして安全性を大きく左右する重要な要素となっています。英語ではminimum ride heightやminimum ground clearanceと呼ばれます。

最低地上高を決める要素

車両の最低地上高は、マフラーのサイレンサー、エンジンのオイルパン、エアロパーツなど、車体下部の様々な部品によって決定されます。これらの部品の中で最も低い部分が、最低地上高を決定することになります。

一般的に、最低地上高が高いほど、凹凸の激しい路面を走行する際に車体下部の損傷リスクを軽減できます。そのため、悪路走行を想定したSUVやオフロード車は、比較的高い最低地上高が設計されています。一方、スポーツカーなどは、重心の低さや空力性能を優先するため、最低地上高が低めに設定される傾向があります。

保安基準と測定対象外部品

日本の保安基準では、普通乗用車など多くの車両に対し、最低地上高を9cm以上（小数点以下切り捨て）と定めています。ただし、以下の部品は測定対象外となります。

タイヤと連動して動くブレーキドラムの下端
緩衝装置の一部（ロアアームなど）の下端
自由度のあるゴム製の部品
樹脂製のマッドガード、エアダムスカート、エアカットフラップなど

特殊車両と高い最低地上高

装甲戦闘車両や農作業用車両など、極めて凹凸の激しい地形を走行する必要がある車両では、一般的な車両とは異なる構造で高い最低地上高が確保されています。代表的な例として、ポータルアクスル（門型アクスル）を用いたハブリダクション機構が挙げられます。この機構は、車輪を車軸よりも高い位置に配置することで、高い最低地上高を実現します。

車高調整機構

近年では、ユーザーが任意に車高を調整できる機構や、自動的に車高を調整する機構が搭載された車両が増えています。エアサスペンション、ハイドロニューマチックサスペンション、アクティブサスペンション、セミアクティブサスペンションなどは、空気圧や油圧を制御することで車高を変化させます。アウディ・オールロードクワトロのような車両では、路面状況を自動的に判断して車高を調整する高度なシステムが採用されています。よりシンプルな構造の車高調整式ショックアブソーバーも製品化されています。

改造による最低地上高の変更

最低地上高は、改造によって意図的に変更することも可能です。最低地上高を下げる改造は「シャコタン」や「ローダウン」と呼ばれ、スプリングやショックアブソーバーなどの交換、コイルスプリングの切除、小径タイヤの装着などが行われます。一方、最低地上高を上げる改造は「リフトアップ」と呼ばれ、サスペンション部品の交換、大径タイヤの装着、ボディとフレーム間にスペーサーを挿入するなどの方法があります。

大型車両と最低地上高

大型トレーラー、特に低床型のフラットベッドトレーラーは、最低地上高が低いため、わずかな道路の起伏でも車体底面が路面に接触する可能性があります。踏切などは特に危険で、アメリカでは低床大型トレーラーに対する警告標識が設置されている場合があります。日本では、真ん中が盛り上がった踏切を「かまぼこ型」と呼び、大型車両の立ち往生事故が問題となっています。

バス、特にワンステップバスやノンステップバスは、出入口の段差や床面を低くするために、最低地上高も低くなる傾向があります。

オートバイの最低地上高

オートバイでは、フレーム、エンジンのクランクケース、カウルやフェアリングなどの最も低い部分が最低地上高を決定します。オンロードバイクは低く、オフロードバイクは高めに設定されることが多いです。しかし、レース車両でも、極端に最低地上高を下げることは、転倒リスクが高まるためあまり行われません。逆に極端に高くすることも、足つき性の悪化などから避けられます。サイドカーは、低重心化のために小径タイヤで最低地上高を下げる場合があります。

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