ルノー・ゾエ

ゾエ (ZOE)

ゾエは、フランスの大手自動車メーカー、ルノーによって開発・生産された、スーパーミニクラスに位置づけられる5ドアハッチバックタイプの電気自動車です。ルノーの電動車両戦略において重要な役割を果たし、欧州市場で広く受け入れられました。

開発の道のり：コンセプトから市販へ

ゾエの名前は、市販モデルが登場する以前からルノーのコンセプトカーに使用されていました。

2005年ゾエ・シティー・カー・コンセプト: 最初のゾエは、2005年のジュネーヴ・モーターショーで発表された都市型コンセプトです。これは全長3.45メートルの3人乗りオープンカーで、後の電気自動車モデルとは直接的な技術的繋がりはありません。
2009年ゾエ・コンセプト: 2009年のフランクフルトモーターショーでは、ルノーの未来の電動車両像を示すEVコンセプトとして登場。ルノー・クリオ（ルーテシア）と同等サイズで、96 PSのモーターとリチウムイオンバッテリーを搭載。推定航続距離は約160 km、最高速度は時速140 kmでした。家庭用コンセントからの充電に加え、急速充電（20分で約80%）や、約3分でのバッテリー交換「クイックドロップ」といった革新的な電力供給方法も提案されました。涙滴型のボディにガルウィングドア、ソーラーパネル付きサンルーフ、特殊な車内環境コントロールシステムなど、先進的なデザインと機能が特徴でした。
2010年ゾエ・プレビュー: 2010年のパリモーターショーで公開されたこのモデルは、2009年のコンセプトを大幅に手直ししたもので、市販モデルに極めて近いデザインが示されました。ガルウィングドアなどの派手な要素は廃止され、より現実的な仕様に変更。モーター出力は80 PSに抑えられ、最高速度も時速135 kmとなりましたが、航続距離は160 kmを維持しました。市販価格が約15,000ユーロとなる可能性も示唆されました。

市販モデルの登場と進化

最終的な市販モデルは、2012年ジュネーヴ・モーターショーで世界初公開されました。全長4,080 mmの5ドアハッチバックとしてデザインされ、同社のクリオ（ルーテシア）よりもやや長いサイズとなりました。

初期モデルは、22 kWh容量のリチウムイオンバッテリーを搭載し、88 PSのモーターで駆動。最大トルクは220 N·m、最高速度は時速135 kmでした。航続距離はNEDC基準で210 kmと公表されましたが、実際の走行では寒冷地で約100 km、温暖な環境で150 km程度が目安とされました。充電システムには、単相から三相交流まで対応する「カメレオンチャージャー」が採用され、電力レベルに応じて30分から9時間で充電が可能でした。当初、バッテリーはLG化学から供給されました。販売方法は国によって異なりましたが、多くの場合、車両本体価格に加えて月額のバッテリーリース料金が必要となる方式が採られました。

ゾエはその後、航続距離を中心に改良が進められました。

2016年マイナーチェンジ: パリモーターショーで発表された改良モデルは、「ZE 40」と呼ばれる大容量バッテリーを搭載し、NEDC基準での航続距離は400 kmへと大幅に向上しました。実際の走行距離は300 km程度とされましたが、初期モデルから大きく改善されました。
* 2019年マイナーチェンジ: 2度目の改良では、バッテリー容量が52 kWhに拡張され、WLTPモードでの航続距離は最大390 kmを達成。内外装デザインも刷新され、Apple CarPlayやAndroid Autoに対応した9.3インチのタッチパネルディスプレイや、10インチのデジタルメーターが採用されるなど、装備面も充実しました。

市場での展開と実績

ゾエの顧客への納車は、2012年12月にまずフランス国内で始まりました。2013年に入ると工場の生産ペースが上がり、同年1月から12月までフランス国内の電気自動車販売で月間トップの座を維持。2013年末までに累計販売台数は5,559台に達し、これは同年のフランス国内EV販売全体の62.8%を占めるものでした。2010年以降のフランス国内EVベストセラーにも輝いています。

欧州全体では、2013年3月にイギリス、4月からドイツ、イタリア、スペインで販売が開始されました。2013年末の世界累計販売台数は8,857台で、その大部分は欧州市場、特にフランスが62.7%を占める最大の市場でした。ドイツが2位、オランダが3位と続きます。2014年1月には世界累計販売台数が1万台を超えました。ノルウェー市場では2014年4月に正式発売されましたが、他の欧州諸国と異なり、バッテリーがリースではなく車両本体価格に含まれる販売方式が取られました。

安全性、評価、論争、そしてモータースポーツ

安全性評価については、初期モデルはヨーロッパの安全テストであるユーロNCAPで五つ星を獲得しましたが、後の2021年モデルでは評価が0つ星となるという、異なる結果が出ています。

ゾエは、2013年世界カー・オブ・ザ・イヤーにおいて最終選考の3台に選ばれるなど、高い評価を受けました。

一方で、バッテリーをリースする販売方式に対して、デジタル著作権管理（DRM）技術が組み込まれているのではないかという批判も上がりました。リース料金の滞納やサポート停止で遠隔的に車両を使用できなくさせる可能性が指摘されましたが、ルノーは公式にDRM技術の使用を否定しています。

また、市販モデルの名称を巡っては、フランス国内で「ゾエ」という名前の娘を持つ家族から、いじめなどの懸念を理由に名称使用の差し止めを求める訴訟が起こされました。しかし、2010年11月、フランスの裁判所はこの訴えを棄却し、ルノーはゾエの名称を使用できることとなりました。ちなみに、「ゾエ」は当時フランス国内で人気のある名前の一つでした。

モータースポーツにも参戦しており、2014年のモンテカルロ・ラリー併催のZENN（Zero Emission No Noise）レースでは、ルノーがエントリーさせた3台のゾエのうち1台がクラス優勝を飾っています。

ゾエは、その継続的な改良による航続距離の伸長と、欧州市場での確かな販売実績を通じて、ルノーの電動化戦略を牽引し、電気自動車の普及に貢献したモデルと言えるでしょう。

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