ル・カドリーユ

ヌーヴェルヴァーグの夜明けを彩る、忘れられた傑作『ル・カドリーユ』

1950年、パリ。まだヌーヴェルヴァーグという言葉さえなかった時代に、後に世界的な巨匠となる二人の若者が、小さな映画を制作しました。監督はジャック・リヴェット、主演はジャン＝リュック・ゴダール。その作品こそが、40分という短い尺ながら、映画史にその名を刻む『ル・カドリーユ』(Le quadrille)です。

当時22歳だったリヴェットにとって本作は2作目の監督作品。一方、19歳のゴダールにとっては俳優として初めての仕事となりました。製作費はなんとゴダールが全額負担していますが、その資金源は、彼のやや奔放な若き日のエピソードとして語られる、叔父から盗んだ金だったと言われています。

ゴダールと共に本作で共演したアンヌ＝マリー・カザリスは、既にいくつかの映画作品に出演経験がありました。1949年にはジャック・バラティエ監督の短篇ドキュメンタリー映画に出演、その後はルネ・クレマン監督作品にも端役で参加するなど、着実にキャリアを積んでいました。しかし、彼女の俳優人生は1988年に幕を閉じ、パリでその生涯を終えました。

注目すべきは、ゴダールの当時の人物像です。まだ監督としてではなく、映画批評家として活動していました。毎週木曜日は、後に『太陽の季節』などを監督する[エリック・ロメール]が主宰するシネクラブに通い、ロメールが創刊した映画雑誌『ラ・ガゼット・デュ・シネマ』に批評を寄稿していたのです。ゴダールはその後、100本近くの映画に出演しますが、『ル・カドリーユ』は、彼が映画制作に関わった最初の作品であり、俳優としてのキャリアの出発点となりました。

『ル・カドリーユ』は、長らくフィルムの所在が不明という、映画史における一つの謎を秘めていました。しかし2016年、リヴェット監督が亡くなった直後、彼の未亡人が自宅アパートからフィルムを発見するという、奇跡的な出来事が起こります。この発見によって、失われたと思われていた名作が、再び世間の光を浴びることとなったのです。

本作は白黒16ミリフィルム、モノラル音声による作品です。短い尺ながらも、後のヌーヴェルヴァーグの先駆けとなる、実験的な手法や、若々しいエネルギーに満ちた作品として、映画史研究においても貴重な資料となっています。ゴダールとリヴェット、二人の若き才能の出会い、そして、彼らが生み出した『ル・カドリーユ』。その存在は、映画の持つ可能性と、創造する喜びを改めて私たちに問いかけてくれるのではないでしょうか。

監督・脚本：ジャック・リヴェット
撮影：（ノンクレジット）
出演：アンヌ＝マリー・カザリス、ジャン＝リュック・ゴダール
製作：ジャン＝リュック・ゴダール
形式：白黒 - 16ミリ - モノラル音声
ジャンル：短篇映画
撮影年：1950年

この作品は、ヌーヴェルヴァーグという映画運動の誕生前夜を捉えた貴重な記録であり、後のゴダールやリヴェットの監督作品へと繋がる重要な作品と言えるでしょう。彼らの若き日の情熱と才能が凝縮された『ル・カドリーユ』は、映画史における隠れた宝石として、これからも多くの人々に感動を与え続けることでしょう。

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