ル・マン式スタート

ル・マン式スタート：伝統と危険性の間で揺れたスタート方法

ル・マン式スタートは、モータースポーツ、特に自動車やオートバイレースにおいてかつて用いられていた独特のスタート方法です。その名の通り、ル・マン24時間レースに由来するこの方式は、ドライバーがコースを横切って自らのマシンに乗り込むという、非常にダイナミックかつ危険性も孕んだものでした。

レース開始前、マシンはピットエリアまたはホームストレート前に、グランドスタンドに向かって一列に整列します。スタートの合図とともに、ドライバーたちはグランドスタンド側からコースを横切り、各自のマシンへと駆け寄り、運転席に乗り込み、レースに飛び出します。この一連の光景は、観客にとって大きな興奮と迫力をもたらす一方で、その危険性も無視できないものでした。

ル・マン24時間レースでは、長年にわたって伝統的なスタート方法として採用されていましたが、1923年の初回レースでは、通常のグリッド式スタンディングスタートが用いられていました。その後、自動車の始動性やドライバーの乗り込みやすさなどを考慮し、ル・マン式スタートが採用されるようになりました。しかし、シートベルト未装着でのスタートや、後続マシンの混乱など、安全面での課題が徐々に明らかになっていきました。

特に1969年の[[ル・マン24時間レース]]では、ジャッキー・イクスが安全を優先し、ゆっくりとマシンに乗り込み、シートベルトを装着するなど、慎重なスタートを切ったことが有名です。しかし、このレースでもジョン・ウルフが運転するポルシェ917が事故を起こし、死亡するという悲劇が起きました。

これらの事故や安全上の懸念から、ル・マン24時間レースでは1971年から、より安全なローリングスタートへと移行しました。それ以降、ル・マン式スタートは、主にバイクレースにおいて見られるようになりました。

しかし、ル・マン24時間レースにおけるル・マン式スタートの影響は、完全に消え去ったわけではありません。スタート直前のセレモニーでは、マシンがグランドスタンドに向かって整列するスタイルが現在も続けられています。これは、レースの歴史と伝統を象徴する光景として、観客に強い印象を与え続けています。FIA世界耐久選手権でも、2015年からは、全レースで同様のスタート前セレモニーが実施されるようになっています。

このように、ル・マン式スタートは、そのダイナミックさと危険性を両立した、モータースポーツ史において重要なスタート方法の一つでした。現在は安全性を重視したローリングスタートが主流となっていますが、その伝統と迫力ある様式は、今もなお、レースに独特の雰囲気を与え続けています。 ル・マン24時間レースにおけるマシン展示方法としての継承は、このスタート方法が持つ歴史的意義と、観客へのアピール力を示す象徴的な存在と言えるでしょう。

参考文献

ジャッキー・イクス『俺だけの運転テクニック』三推社 講談社 ISBN 4-06-107150-5
『ルマン 伝統と日本チームの戦い』グランプリ出版 ISBN 4-87687-161-2

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