ルースキー・ミール

ルースキー・ミール（ロシア世界）とは

「ルースキー・ミール」（ロシア語: Русский мир、英語: Russian world）は、ロシア語を話し、ロシア正教を信仰する人々が居住する地域を独自の文明圏とみなす、ロシア特有の世界観、思想、イデオロギーです。これは単なる文化的概念に留まらず、ロシアの社会構造、「大ロシア主義」的な外交・軍事政策とも深く結びついており、世界各地に存在するロシア人ディアスポラにも影響を与えています。

歴史的変遷

「ロシア世界」という概念は、時代とともに変化してきました。

起源: 11世紀、キエフ大公イジャスラフ1世がローマ教皇クレメンス1世を称賛する中で、「ロシア世界」という言葉を使用しました。
ロシア帝政期: 保守ナショナリズム的な思想として発展しました。当時のロシア帝国は世界の人口の7分の1を占めていました。
1990年代: ソビエト連邦崩壊後、ロシア連邦においてこの概念が復活しました。多民族・多文化国家としてのロシアを統一する思想として、「ロシア思想」が模索されました。
プーチン時代: 2007年、ウラジーミル・プーチン大統領が政府資金によるルースキー・ミール基金を設立し、この概念はロシアの政治に組み込まれました。

政治利用

ロシア世界の概念は、ロシアの復興、あるいはソ連・ロシア帝国の勢力圏の回復という考えと結びつけられています。また、ロシアのソフト・パワー戦略の道具としても利用されています。

ウクライナとの関係

ウクライナでは、ロシア世界の推進はロシアの軍事介入と強く結びついて認識されています。一部のウクライナ人にとって、ロシア世界は「新ソビエト主義」の別名に過ぎないと捉えられています。

ロシア正教会の役割

ロシア正教会は、「ルースキー・ミール」を「東方正教会、ロシア文化、共通の歴史的記憶によって結びついた文明空間」と定義し、その推進に深く関わっています。モスクワ総主教キリル1世もこのイデオロギーを共有しており、ウクライナとの宗教的つながりを重視する発言を行っています。

2022年ロシアのウクライナ侵攻との関連

ルースキー・ミールは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を正当化するイデオロギーとしても利用されました。キリル1世も侵攻を支持したことが、ウクライナにおけるロシアへの反感を高める一因となり、ウクライナ正教会 (モスクワ総主教庁系)の独立へと繋がりました。

まとめ

「ルースキー・ミール」は、歴史、文化、宗教、そして政治が複雑に絡み合った概念です。その曖昧さゆえに、様々な解釈や利用がなされており、特にウクライナ情勢において重要な意味を持っています。今後のロシアの動向を理解する上で、「ルースキー・ミール」の概念を把握しておくことは不可欠と言えるでしょう。

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