レイシャル・プロファイリング

レイシャル・プロファイリングとは

レイシャル・プロファイリングとは、法執行機関（警察官や保安官など）が、特定の人種、肌の色、民族、宗教、国籍、言語といった属性に基づいて個人を捜査の対象とすることです。これは、客観的な証拠や合理的な疑いではなく、人種などの属性そのものが捜査の根拠となるため、人権侵害や差別につながる深刻な問題として認識されています。

アメリカ合衆国におけるレイシャル・プロファイリング

アメリカ合衆国では、長年にわたり、警察がアフリカ系アメリカ人やその他の有色人種を不当に捜査対象としているとして、レイシャル・プロファイリングが問題視されてきました。特に、「ストップ・アンド・フリスク」と呼ばれる職務質問や所持品検査において、黒人男性が不当に標的にされるケースが多発しています。

ニューヨーク市警察のデータによると、2009年には、ストップ・アンド・フリスクを受けた歩行者のうち、黒人が55%を占めていました。これは、ニューヨーク市の人口構成における黒人の割合（23%）を大幅に上回る数字です。また、薬物使用に関する調査では、白人と黒人の使用率に差がないにもかかわらず、黒人の薬物関連での逮捕者数は白人よりも多いというデータもあります。これらの事実は、捜査における人種による偏りを示唆しています。

著名なアフリカ系アメリカ人が、レイシャル・プロファイリングの被害に遭う事例も報告されています。ハーバード大学のヘンリー・ルイス・ゲイツ教授が自宅前で不審者と間違われて逮捕された事件や、オバマ政権の元スタッフが引っ越し中に「武装した黒人の強盗」と通報された事件などは、社会的な議論を呼びました。

走行中の黒人（Driving While Black: DWB）という言葉は、交通違反などの明白な理由がないにもかかわらず、黒人または有色人種の運転者が警察官に停止させられるケースが多いことを揶揄するものです。著名な天体物理学者のニール・ドグラース・タイソンも、自身が何度も不当に停止させられた経験を語っています。

これらの問題に対処するため、Black Lives Matter運動をはじめとする人種差別反対運動が活発化し、警察改革や人種間の平等に向けた取り組みが求められています。

日本におけるレイシャル・プロファイリング

日本においても、警察によるレイシャル・プロファイリングが行われている疑いがあります。特に、外国人やハーフの人々が、外見上の特徴を理由に職務質問を受けるケースが報告されています。

2021年には、バハマ人と日本人のハーフの男性が、東京駅構内でスマートフォンを操作していたところ、「警察官を気にしていた」という理由で職務質問を受け、所持品検査を受けました。この件は、SNSで拡散され、国内外のメディアで報道されました。

在日米国大使館も、レイシャル・プロファイリングが疑われる事案について、在日アメリカ人に対して注意喚起を行っています。

弁護士や研究者は、外見を理由とした職務質問はレイシャル・プロファイリングに該当し、違法であると指摘しています。しかし、日本では、レイシャル・プロファイリングを禁止する法律やガイドラインは整備されておらず、警察庁の自主的な対応に任されているのが現状です。

国際的な動向

国連の人種差別撤廃委員会は、2020年にレイシャル・プロファイリングを防ぐための一般的勧告36号を出し、締約国に対して、レイシャル・プロファイリングを防ぐ法律やガイドラインを整備するよう求めています。

まとめ

レイシャル・プロファイリングは、人種や民族などの属性に基づいて個人を捜査対象とする差別的な行為であり、人権侵害につながる深刻な問題です。米国をはじめ、日本を含む世界各国で問題が指摘されており、法的・制度的な対策が求められています。人種差別撤廃に向けた継続的な取り組みが不可欠です。

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