レクイエム (モーツァルト)

モーツァルトのレクイエム ニ短調 K. 626

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した「レクイエム ニ短調（K. 626）」は、彼の最後の作品であり、死者のためのミサ曲として広く知られています。この作品は、不完全な形で残っており、弟子であるフランツ・クサーヴァー・ジュースマイヤーによって補筆されました。しばしばヴェルディやフォーレと共に「三大レクイエム」の一つに数えられています。

作曲の背景

1791年、モーツァルトは既に体調を崩し、ウィーンでの人気も失っていました。彼はシカネーダー一座からの依頼に応じてオペラ『魔笛』の作曲を進め、さらにプラハでの戴冠式に際して『皇帝ティートの慈悲』を優先して作曲しました。この間、見知らぬ男性から匿名の委託でレクイエムの作曲依頼を受け、高額な報酬の一部を前払いいただくことになりました。

しかし、モーツァルトは体調が不調をきたし、特に11月には床を離れがたい状態になりました。彼は12月5日、わずか35歳でこの世を去ります。葬儀はシュテファン大聖堂で行われ、その後、モーツァルトの作品として「レクイエム」が完成した形で初演されました。この作品の伝説的な背景には、モーツァルトが何らかの神秘的な働きによってレクイエムを作曲していたという説がありますが、1964年に匿名の依頼主がフランツ・フォン・ヴァルゼック伯爵であることが明言されました。

演奏の歴史

モーツァルトの死後、彼の未亡人コンスタンツェは、夫の作品を完成させることを望み、弟子たちに補作を依頼しましたが、最終的にジュースマイヤーが一から補筆を行い、レクイエムは完成を見ます。完成した総譜は伯爵に引き渡され、1793年には彼自身が指揮する形で演奏しました。しかし、コンスタンツェは自らの名義で夫の作品として出版し、後にモーツァルトの名声が高まり、このレクイエムは広く知られるようになりました。

作品の構成と内容

このレクイエムは14曲から構成され、モーツァルト自身が完成させたのは第1曲のみであり、他の曲の主要部分は弟子たちが補筆したものです。

• - 第1曲：レクイエム・エテルナム（永遠の安息を）
• - 第2曲：キリエ（憐れみの賛歌）
• - 第3曲：ディエス・イレ（怒りの日）
• - 第8曲：ラクリモーサ（涙の日）はモーツァルトの絶筆として知られています。この曲は、モーツァルトの作曲スタイルが色濃く現れており、特にメロディや和声が特徴的です。

合唱部分はすべて混声四部とされ、モーツァルトが意図した音楽的表現が織り込まれています。作品全体にわたり、彼が生前使用したモチーフが息づいており、特にイントロイトゥスの冒頭に示されるD-C#-D-E-F-G-F-E-Dの主題は、このレクイエム全体を通して現れる重要な動機です。

補作や様々な版

ジュースマイヤーによる補筆は評価されていますが、音楽界ではその不出来な点も指摘されており、様々な補作が行われてきました。バイヤー版やモーンダー版など、多数のバリエーションが存在し、それぞれの編者がモーツァルトのスタイルや音楽的意図を尊重しながら再構築しています。特に「涙の日」の部分は、モーツァルトの絶筆でありながら、後の補筆で重要な役割を果たしています。

現代への影響

モーツァルトのレクイエムは、演奏会や葬儀の場で使われ続け、その影響力を持ち続けています。たとえば、ショパンの葬儀で演奏されたり、ジョン・F・ケネディ大統領の追悼ミサでも演じられました。さらに、映画『アマデウス』でも数多くの楽曲が使用され、多くの人々にモーツァルトの音楽を再認識させました。

モーツァルトのレクイエムは、その迫力と美しさから、単なる音楽作品の枠を超えた多くの感動を呼び起こす存在です。音楽史上の重要な遺産として、今後も多くの人々に愛され続けることでしょう。

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