レジリエンス (心理学)

レジリエンスとは

心理学におけるレジリエンス（resilience）とは、不利な状況やストレスに直面した際に、そこから立ち直り、適応していく個人の能力を指します。これは、単にストレスに耐えるだけでなく、そこから学び、成長する力を含みます。困難な状況は、家族関係、健康問題、仕事、経済的な問題など多岐にわたります。レジリエンスは、脆弱性（vulnerability）の反対概念であり、精神的な回復力、抵抗力、復元力、耐久力、再起力などと訳されますが、一般的にはそのまま「レジリエンス」として用いられます。

レジリエンスの概念

元々、物理学の用語であったレジリエンスは、「外力による歪みを跳ね返す力」を意味していました。心理学では、ボナノ（Bonanno,G.）が2004年に「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」と定義しました。1970年代には、貧困や親の精神疾患といった不利な環境に置かれた子供たちに焦点が当てられていましたが、1980年代から2000年代にかけて、成人も含めた精神疾患に対する防衛因子、抵抗力としての概念として注目されるようになりました。

具体例として、PTSD（心的外傷後ストレス障害）が挙げられます。アメリカの研究では、外傷的な体験をした人の全てがPTSDを発症するわけではなく、一部の人だけが発症すると報告されています。この発症の有無には、レジリエンスが大きく関わっていると考えられています。

チャーニー（Charney）は、レジリエンスを構成する要素として、コルチゾールやセロトニンなど11の生理学的因子を提唱しました。しかし、レジリエンスは生理的な要素だけではありません。アーミッド（Ahmed）は、性格的な特徴を「脆弱因子」と「レジリエンス因子」に分類しました。重要なのは、「レジリエンス因子」が「脆弱因子」の単なる反対ではないことです。「脆弱因子」を持っていても、「レジリエンス因子」が十分に働けば、困難な状況を乗り越えることができます。レジリエンス因子には、自尊感情、安定した愛着、ユーモアのセンス、楽観主義、周囲のサポートなどが含まれます。

小塩真司らの研究では、レジリエンスは「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」の3つの因子で構成されるとされています。また、苦痛な経験をしたにも関わらず自尊心が高い人は、自尊心が低い人よりもレジリエンスが高いことが示されています。

このように、レジリエンスは複雑な要素が絡み合って構成されており、生まれつきの要素と、その後の経験や考え方によって形成される要素の両方を含んでいます。

レジリエンスを構築する方法

アメリカ心理学会は、レジリエンスを築くための10の方法を提唱しています。

1. 親戚や友人らと良好な関係を維持する: 社会的なつながりは、困難な時期を乗り越えるための重要な支えとなります。
2. 危機やストレスに満ちた出来事を、耐え難い問題として捉えない: 困難な状況を、成長の機会として捉え直すことが大切です。
3. 変えられない状況を受け入れる: 受け入れることで、状況を客観的に捉え、前向きな行動につながります。
4. 現実的な目標を立て、それに向かって進む: 目標を持つことで、行動する意欲を維持し、達成感を得られます。
5. 不利な状況であっても、決断し行動する: 行動することで、状況をコントロールする感覚を取り戻し、無力感を軽減できます。
6. 損失を出した闘いの後には、自己発見の機会を探す: 失敗から学び、新たな視点や強みを見つけることができます。
7. 自信を深める: 過去の成功体験を振り返ることで、自己効力感を高められます。
8. 長期的な視点を保ち、より広範な状況でストレスの多い出来事を検討する: 困難な状況を、一時的なものとして捉えられます。
9. 希望的な見通しを維持し、良いことを期待し、希望を視覚化する: ポジティブな思考は、行動を促し、困難を乗り越える力を与えてくれます。
10. 心と体をケアし、定期的に運動し、己のニーズと気持ちに注意を払う: 心身の健康は、レジリエンスの基盤となります。

また、セルフヘルプを通じてレジリエンスを構築する方法も多く提唱されており、認知行動療法（CBT）や理性感情行動療法（REBT）の理論を元にしたものが一般的です。例えば、Penn Resiliency Program（PRP）と呼ばれるグループ認知行動介入は、レジリエンスの様々な側面を向上させることが示されています。

まとめ

レジリエンスは、困難な状況を乗り越え、より強く生きるための重要な能力です。それは、生まれつき備わっているだけでなく、後天的に鍛え、伸ばすことができます。上記の要素や方法を参考に、自身のレジリエンスを高め、より豊かな人生を送りましょう。

参考資料

小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治「ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性-精神的回復力尺度の作成」『カウンセリング研究』 35巻1号、日本カウンセリング学会、2002年。
岡野憲一郎『新外傷性精神障害―トラウマ理論を越えて』岩崎学術出版社、2009年。
加藤敏; 八木剛平『レジリアンス 現代精神医学の新しいパラダイム』金原出版、2009年。
岡野憲一郎『続解離性障害―脳と身体から見たメカニズムと治療』岩崎学術出版社、2011年。

関連項目

復興
ホワイトプロパガンダ
災害ユートピア
失地回復主義
臥薪嘗胆
韓信の股くぐり
条約改正#影響と歴史的意義
シオニズム
インティファーダ
ヴェルサイユ条約#ドイツへの影響
いじめ#対策
マインドビルディング
ストレス管理
首尾一貫感覚（sense of coherence, SOC）
事業継続計画（組織のレジリエンス）
大企業病
パーキンソンの法則

外部リンク

“折れない心”の育て方 - NHK クローズアップ現代 - NHKオンライン

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