レスプレンデント (小説)

スティーヴン・バクスターのSF短編集『レスプレンデント』は、2006年に刊行された作品で、彼の代表的なシリーズである『デスティニーズチルドレン』の掉尾を飾る一冊です。本書は複数の独立した短編で構成されていますが、その間に不死の存在である少女、ルル・パーツによる「幕間」が挟まれています。これらの幕間を読むことで、各短編がルルの長い生涯における特定の出来事として位置づけられ、『デスティニーズチルドレン』シリーズ全体に壮大な時間の流れと統一的な歴史観が与えられます。

収録されている作品は多岐にわたりますが、特に重要な幾つかを紹介します。

「リアリティ・ダスト」
収録作の一つ「リアリティ・ダスト」の舞台は、西暦5408年、第三次拡張時代の始まり。かつて人類はスクウィーム、次いでクワックスに征服される歴史を辿りましたが、第二次拡張時代はクワックス母星系破壊で終焉を迎え、新たな時代を迎えていました。主人公ハマは歴史真理委員会の調査員。クワックスに協力しAS（非老化）テクノロジーへのアクセスを制限していた「ファラオ」と呼ばれる不死者たちを追います。ハマは彼らを捕らえるため木星の衛星カリストへ赴きます。

「ライディング・ザ・ロック」
さらに遠未来、西暦23479年の第三次拡張時代を描くのが「ライディング・ザ・ロック」。人類は度重なる異星種族の支配を退け、ジーリーに次ぐ勢力となりましたが、一万八千年以上に及ぶジーリーとの戦いは社会を極端な軍事主義へと変貌させていました。新人歴史真理委員のルカは、銀河規模の戦争を統制する知性ネットワークの中枢にいます。艦長ティールと出会い惹かれるルカですが、拡張への義務は彼を銀河中心部の激戦区へと駆り立て、戦争の真実に直面させます。

「メイフラワーII」
「メイフラワーII」は、西暦5420年に太陽系を発った世代宇宙船の数万年にわたる旅を描きます。数千年後、船内の人々は宇宙船にいることすら忘れ、維持は宗教儀式に。二万五千年後には進化的に分岐し、短命な部族集団と共食い集団に分かれていました。これは生命が困難でも生き延びる道を見つけるテーマを示唆します。物語は、クワックス協力者だった住民が新政府連合から攻撃を受け、脱出を試みるポート・ソルから始まります。主人公ルーセルは脱出船の一つ「メイフラワーII」に乗り込みます。目的地は銀河外で、主観時間で5万年もかかる旅でした。不老化処置を受けた数名が航行を担いますが、時間経過で失われ、ルーセルだけが残ります。彼は生命維持に依存し、やがて船と一体化していきます。他の住民は人間性から離れた社会を形成。二万五千年後、ピリウスとトレックが接触し、住民の移送を提案。船と一体化したルーセルはこれを受け入れます。

「地球包囲戦」
本書の最終話「地球包囲戦」は、火星の若者と、シリーズの語り手ルル・パーツとの出会いを描きます。これは『ジーリー：エンデュランス』に収録されている短編「オールド・アース」の起源となるエピソードでもあります。

『レスプレンデント』は、個々の短編が描く断片的な未来の出来事を、ルルの視点を通して一つの巨大な歴史絵巻へと昇華させます。人類が幾度となく異星種族（スクウィーム、クワックス、ジーリーなど）との接触や戦争を経験し、進化や社会形態を変容させながら、銀河の遥か未来まで生き延びていく様を描いた『デスティニーズチルドレン』シリーズの、まさしく最終到達点を示す作品と言えるでしょう。バクスター作品らしい、科学的考証に基づいた壮大なスケールと、人間の不屈の生命力に対する考察が込められています。

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