レズリー・グローヴス

レスリー・R・グローブス：マンハッタン計画と原爆投下の影

レスリー・リチャード・グローヴス・ジュニア（1896年-1970年）は、アメリカ陸軍の中将であり、第二次世界大戦における原子爆弾開発計画、通称マンハッタン計画の責任者として歴史に名を残しました。ニューヨーク州オールバニ生まれの彼は、陸軍士官学校を卒業後、工兵隊に所属。着実なキャリアを積み重ね、国防総省庁舎の建築計画にも携わったのち、1942年、マンハッタン計画の指揮を執ることになります。

マンハッタン計画の指揮と原爆開発

マンハッタン計画は、アメリカ合衆国政府が主導した、世界初の原子爆弾開発プロジェクトでした。莫大な予算と人員、そして高度な技術が投入されたこの極秘計画において、グローブスは卓越した組織力とリーダーシップを発揮し、1945年7月16日、世界初の核実験「トリニティ実験」を成功に導きます。この成功は、戦争の終結に大きな影響を与えることとなりました。

原爆投下とグローブスの役割：新たな歴史的解釈

アメリカでは長らく、原爆投下の決断はハリー・S・トルーマン大統領の単独判断によるものとされてきました。しかし、近年の歴史研究では、グローブスが原爆投下の決定過程において、より大きな役割を果たしていた可能性が指摘されています。

グローブスは、ルーズベルト大統領在任中から原爆投下の計画を進めており、ルーズベルト大統領は計画の進捗状況を詳細に把握していなかったとされています。トルーマン大統領が就任した時点では、計画は既に最終段階に差し掛かっており、大統領は原爆計画の全貌を十分に理解していなかったという見解もあります。

いくつかの歴史資料、例えばグローブス自身のインタビューや、関係者の日記などから、グローブスが原爆投下の日程や目標都市の選定に大きな影響を与えていたことが示唆されています。当初、グローブスは京都を目標都市として考えていましたが、陸軍長官ヘンリー・スティムソンの反対により、広島に変更されました。スティムソンは京都の文化的価値と、市民への甚大な被害を懸念していたとされています。

広島への原爆投下後、トルーマン大統領は、その甚大な被害を目の当たりにし、深く後悔したとされています。しかし、グローブスは、既に原爆計画の完了と、その効果の証明という立場から、投下を推し進めていた可能性が考えられます。

グローブスの行動は、戦争の終結を早めるという正当性と、国家予算の巨額な投下に対する責任感、そして、ソ連に対する威嚇といった複雑な要素が絡み合っていたと考えられます。

歴史的評価の複雑さ

原爆投下の是非は、現在でも激しい議論を呼び続けています。グローブスの役割についても、歴史家の間で様々な解釈が存在します。単純に英雄と断定することも、一方的に悪役として非難することもできない、複雑で多面的な人物像と言えるでしょう。マンハッタン計画の成功に貢献した功績と、原爆投下における責任の重さを両立して理解することが、今後の歴史研究における課題と言えるでしょう。


グローヴスを演じた俳優

グローブスは映画の中でも描かれており、有名な俳優がその役を演じています。

ポール・ニューマン（映画『シャドー・メーカーズ』）
マット・デイモン（映画『オッペンハイマー』）


参考文献

Groves, Leslie (1962). Now It Can Be Told: The Story of the Manhattan Project. New York: Harper. ISBN 0-306-70738-1. OCLC 537684
レズリー・グローヴス『私が原爆計画を指揮した―マンハッタン計画の内幕』富永謙吾・実松譲、恒文社、1964年。全国書誌番号:64009562。
レズリー・グローヴス『原爆はこうしてつくられた』（第2版）恒文社、1982年。ISBN 4-7704-0150-7。
中沢志保『ヘンリー・スティムソンと「アメリカの世紀」』国書刊行会、2014年2月。ISBN 978-4-336-05779-2。

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