レディ・ベス
作品概要
ミュージカル『レディ・ベス』（英語題：Lady Bess）は、2014年に日本の帝国劇場で世界初演された舞台作品です。イングランド史上最も偉大な君主の一人とされるエリザベス1世が、女王として即位するまでの青春期、特に激動の時代における彼女の苦難と成長に焦点を当てて描かれます。脚本と歌詞はミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲はシルヴェスター・リーヴァイ、演出と訳詩は小池修一郎が担当し、製作は東宝です。
題名に込められた意味
作品のタイトルである「レディ・ベス」は、エリザベスが幼い頃に一時的に王女の身分を失い、庶子とされた不遇な時期に用いられた呼び名に由来します。彼女の母であるアン・ブーリンが不義の疑いをかけられ、父ヘンリー8世との婚姻が無効とされた結果、当時わずか3歳にも満たなかったエリザベスも王位継承権を剥奪されました。この時、侍女たちは「プリンセス・エリザベス」と呼べなくなり、貴族に対する敬称である「レディ」を用いて「レディ・エリザベス」、親しみを込めて「レディ・ベス」と呼ぶようになったと言われています。この題名は、後の輝かしい女王像だけでなく、彼女が経験した若き日の苦難を示唆しています。
物語の背景と展開
物語の舞台は16世紀半ば、絶対王政下のテューダー朝イングランドです。父王ヘンリー8世の崩御後、政治的な混乱が続く中、エリザベスは人目を避けるように田舎で静かに暮らし、自らのプロテスタント信仰を守っていました。しかし、カトリック国であるスペインの血を引く異母姉メアリーが女王として即位すると状況は一変します。熱心なカトリック教徒であるメアリーは、プロテスタントに対して苛烈な弾圧を開始し、「ブラッディ・メアリー」と恐れられるようになります。
メアリー女王の圧政の下、民衆の間ではプロテスタントであるレディ・ベスを新たな希望、次期女王として待望する声が高まっていきます。これに危機感を抱いたカトリック勢力の矛先は、次第にベスへと向けられ、彼女は幾度となく命の危険に晒されることになります。政争に敗れた多くの人々がロンドン塔に消えた激動の時代、エリザベスは持ち前の聡明さと強い意志でこれらの困難を生き抜いていきます。
作品は、宗教間の対立、異母姉メアリーとの複雑な関係、そして幼くして処刑された母アン・ブーリンへの拭いがたい思い、さらには密かに育まれる自由な吟遊詩人ロビン・ブレイクとの恋といった様々な葛藤を通して、試練多き青春を乗り越え、後の偉大なイングランド女王へと成長していく一人の女性の姿を壮大に描きます。
作品に込められた問い
本作は、東宝が『マリー・アントワネット』を手がけたクンツェとリーヴァイに新作として依頼したもので、構想から完成まで約4年を要しました。脚本を手がけたミヒャエル・クンツェは、歴史家たちが長年論じ合ってきた二つの問いに、この作品で向き合います。「なぜエリザベス1世はイギリス史上最も偉大な女王となり得たのか？」、そして「なぜ彼女は「処女王」と呼ばれ、生涯結婚しなかったのか？」これらの問いへの答えを、クンツェはエリザベスがまだ「レディ・ベス」と呼ばれていた若い日々の経験の中に探求します。
クンツェによれば、幼い頃に自身の出自ゆえに受けた中傷や迫害からエリザベスは宗教的な寛容の精神を学んだこと、そして生涯をかけた叶わぬ恋が、彼女の後の生き方に決定的な影響を与えたとしています。
作品の重要なシンボルとして登場する「イモーテル（永久花）」は、色褪せない青春を象徴しています。ベスがこの花を最愛の人に託す場面は、若き日々との決別と、その後の人生全てを国家に捧げるという強い決意、そして同時に彼への永遠の愛を誓う複雑な思いを表しているとクンツェは語っています。
登場人物
レディ・ベス: 後のエリザベス1世。聡明で意志が強く、困難に立ち向かい成長する主人公。
ロビン・ブレイク: 自由を愛する吟遊詩人。ベスの心の支え。シェイクスピアがモデルとされる。
メアリー・チューダー: イングランド女王、ベスの異母姉。熱心なカトリックでプロテスタントを弾圧。「ブラッディ・メアリー」。
フェリペ: スペイン王子。メアリーと政略結婚し、イングランドをカトリック化しようと画策する。
アン・ブーリン: ベスの母。ヘンリー8世の2番目の王妃。処刑後もベスの心に影響を与える存在。
キャット・アシュリー: ベスの忠実な教育係であり、母代わりの存在。
ロジャー・アスカム: ベスの家庭教師。女王に必要な幅広い知識をベスに授ける人文学者。
上演史と評価
『レディ・ベス』は、2014年に日本各地で初演された後、2017年にも再演が行われました。2022年にはスイスでも上演されています。初演は高い評価を受け、専門誌「ミュージカル」（ミュージカル出版社）の2014年ミュージカル・ベストテンにおいて、作品部門の第1位に輝くなど、評価を得ています。その楽曲の素晴らしさはもちろん、歴史上の人物の内面に深く迫るドラマティックな脚本と、壮大なスケールで描かれる演出が特長です。
関連情報
関連メディア：ハイライト・ライブ録音盤CD、上演DVDなど。
参考文献：公式パンフレット、関連ムック本など。
関連項目：エリザベス1世やテューダー朝時代を描いた映画や舞台など。
ミュージカル『レディ・ベス』（英語題：Lady Bess）は、2014年に日本の帝国劇場で世界初演された舞台作品です。イングランド史上最も偉大な君主の一人とされるエリザベス1世が、女王として即位するまでの青春期、特に激動の時代における彼女の苦難と成長に焦点を当てて描かれます。脚本と歌詞はミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲はシルヴェスター・リーヴァイ、演出と訳詩は小池修一郎が担当し、製作は東宝です。
題名に込められた意味
作品のタイトルである「レディ・ベス」は、エリザベスが幼い頃に一時的に王女の身分を失い、庶子とされた不遇な時期に用いられた呼び名に由来します。彼女の母であるアン・ブーリンが不義の疑いをかけられ、父ヘンリー8世との婚姻が無効とされた結果、当時わずか3歳にも満たなかったエリザベスも王位継承権を剥奪されました。この時、侍女たちは「プリンセス・エリザベス」と呼べなくなり、貴族に対する敬称である「レディ」を用いて「レディ・エリザベス」、親しみを込めて「レディ・ベス」と呼ぶようになったと言われています。この題名は、後の輝かしい女王像だけでなく、彼女が経験した若き日の苦難を示唆しています。
物語の背景と展開
物語の舞台は16世紀半ば、絶対王政下のテューダー朝イングランドです。父王ヘンリー8世の崩御後、政治的な混乱が続く中、エリザベスは人目を避けるように田舎で静かに暮らし、自らのプロテスタント信仰を守っていました。しかし、カトリック国であるスペインの血を引く異母姉メアリーが女王として即位すると状況は一変します。熱心なカトリック教徒であるメアリーは、プロテスタントに対して苛烈な弾圧を開始し、「ブラッディ・メアリー」と恐れられるようになります。
メアリー女王の圧政の下、民衆の間ではプロテスタントであるレディ・ベスを新たな希望、次期女王として待望する声が高まっていきます。これに危機感を抱いたカトリック勢力の矛先は、次第にベスへと向けられ、彼女は幾度となく命の危険に晒されることになります。政争に敗れた多くの人々がロンドン塔に消えた激動の時代、エリザベスは持ち前の聡明さと強い意志でこれらの困難を生き抜いていきます。
作品は、宗教間の対立、異母姉メアリーとの複雑な関係、そして幼くして処刑された母アン・ブーリンへの拭いがたい思い、さらには密かに育まれる自由な吟遊詩人ロビン・ブレイクとの恋といった様々な葛藤を通して、試練多き青春を乗り越え、後の偉大なイングランド女王へと成長していく一人の女性の姿を壮大に描きます。
作品に込められた問い
本作は、東宝が『マリー・アントワネット』を手がけたクンツェとリーヴァイに新作として依頼したもので、構想から完成まで約4年を要しました。脚本を手がけたミヒャエル・クンツェは、歴史家たちが長年論じ合ってきた二つの問いに、この作品で向き合います。「なぜエリザベス1世はイギリス史上最も偉大な女王となり得たのか？」、そして「なぜ彼女は「処女王」と呼ばれ、生涯結婚しなかったのか？」これらの問いへの答えを、クンツェはエリザベスがまだ「レディ・ベス」と呼ばれていた若い日々の経験の中に探求します。
クンツェによれば、幼い頃に自身の出自ゆえに受けた中傷や迫害からエリザベスは宗教的な寛容の精神を学んだこと、そして生涯をかけた叶わぬ恋が、彼女の後の生き方に決定的な影響を与えたとしています。
作品の重要なシンボルとして登場する「イモーテル（永久花）」は、色褪せない青春を象徴しています。ベスがこの花を最愛の人に託す場面は、若き日々との決別と、その後の人生全てを国家に捧げるという強い決意、そして同時に彼への永遠の愛を誓う複雑な思いを表しているとクンツェは語っています。
登場人物
レディ・ベス: 後のエリザベス1世。聡明で意志が強く、困難に立ち向かい成長する主人公。
ロビン・ブレイク: 自由を愛する吟遊詩人。ベスの心の支え。シェイクスピアがモデルとされる。
メアリー・チューダー: イングランド女王、ベスの異母姉。熱心なカトリックでプロテスタントを弾圧。「ブラッディ・メアリー」。
フェリペ: スペイン王子。メアリーと政略結婚し、イングランドをカトリック化しようと画策する。
アン・ブーリン: ベスの母。ヘンリー8世の2番目の王妃。処刑後もベスの心に影響を与える存在。
キャット・アシュリー: ベスの忠実な教育係であり、母代わりの存在。
ロジャー・アスカム: ベスの家庭教師。女王に必要な幅広い知識をベスに授ける人文学者。
上演史と評価
『レディ・ベス』は、2014年に日本各地で初演された後、2017年にも再演が行われました。2022年にはスイスでも上演されています。初演は高い評価を受け、専門誌「ミュージカル」（ミュージカル出版社）の2014年ミュージカル・ベストテンにおいて、作品部門の第1位に輝くなど、評価を得ています。その楽曲の素晴らしさはもちろん、歴史上の人物の内面に深く迫るドラマティックな脚本と、壮大なスケールで描かれる演出が特長です。
関連情報
関連メディア：ハイライト・ライブ録音盤CD、上演DVDなど。
参考文献：公式パンフレット、関連ムック本など。
関連項目：エリザベス1世やテューダー朝時代を描いた映画や舞台など。
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