レナータ・ボルガッティ

レナータ・ボルガッティ (1894-1964) は、イタリアを代表するピアニストとして知られています。名高いワグネリアン・テノール、ジュゼッペ・ボルガッティを父に持つ彼女は、幼少期はバレリーナを目指していましたが、後にその道を諦め、音楽の道へと進みます。

彼女の才能はすぐに開花し、特にドビュッシーの作品を得意として高い評価を得ました。ヨーロッパのみならず、アメリカ合衆国でも演奏活動を行い、国際的なコンサートピアニストとして成功を収めます。その華麗な演奏は、世界中の聴衆を魅了しました。

私生活においては、ボルガッティはレズビアンであることを公に表明したわけではありませんでしたが、当時の社会情勢を考慮すれば、彼女の人間関係は、現代の視点から見ても興味深いものと言えるでしょう。

20世紀初頭、ボルガッティはカプリ島に滞在していました。そこで彼女は、ヴェネツィアの男爵夫人であり社交界の有名人であったミミ・フランケッティと1年間の関係を持ちます。しかし、この関係は長くは続きませんでした。フランケッティは後に画家ロメイン・ブルックスと関係を持ち、ボルガッティはカプリ島を離れ、ヨーロッパ大陸での演奏活動に専念するようになります。

その後もボルガッティの恋愛遍歴は続きます。ブルックスとは断続的に3年間の関係を続けましたが、最終的にはブルックスから関係を解消されます。1920年代半ばには、シンガーミシンの相続人であり、エドモン・ド・ポリニャック公妃であったウィナレッタと関係を持ちました。

音楽活動においては、ヴァイオリニストのオルガ・ラッジと頻繁に共演しました。ラッジは当時、音楽評論家として活躍していたエズラ・パウンドと愛人関係にありました。興味深いことに、パウンドはボルガッティの演奏を酷評していたにも関わらず、ボルガッティとラッジは数年にわたって共演を続けました。これは、二人の音楽的才能が互いに認め合い、尊重しあっていたことの証左と言えるでしょう。パウンドの辛辣な批評にも動じないボルガッティの揺るぎない音楽への情熱が伺えます。二人の関係が同性愛に基づいていた可能性も否定できませんが、音楽的な理解と信頼関係が演奏活動継続の大きな要因だったと推察されます。

晩年は音楽教師として後進の育成に力を注ぎ、1964年にローマで白血病のため亡くなりました。

レナータ・ボルガッティは、類まれな音楽的才能と複雑な人間関係、そして時代の変遷の中で生きた、魅力的で謎めいた人物でした。彼女の生涯は、芸術家としての成功と、個人的な葛藤が複雑に絡み合ったドラマチックな物語であり、20世紀初頭から半ばにかけてのヨーロッパの芸術文化の一端を垣間見ることができる貴重な記録となっています。彼女の演奏は今となっては聴くことが叶いませんが、彼女が残した足跡は、音楽史に永遠に刻まれることでしょう。

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