レナート・ドゥルベッコ

レナート・ドゥルベッコ：腫瘍ウイルス研究のパイオニア

レナート・ドゥルベッコ (1914年2月22日-2012年2月19日) は、20世紀における最も重要なウイルス学者の一人です。イタリア生まれですが、アメリカやイギリスで長く研究活動を行い、英語読みでリナート・ダルベッコと呼ばれることもありました。彼の腫瘍ウイルスに関する研究は画期的であり、1975年にノーベル生理学・医学賞を受賞する礎となりました。

激動の若年期と研究への道

ドゥルベッコはイタリアのカラブリア州カタンザーロに生まれました。トリノ大学で医学を学び、そこで後にノーベル賞を受賞するサルヴァドール・ルリアやリータ・レーヴィ＝モンタルチーニと出会い、親交を深めました。第二次世界大戦中は軍医として従軍し、負傷する経験もしました。戦後はレジスタンス運動に参加。戦後、研究に復帰し、ルリア、レーヴィ＝モンタルチーニと共にアメリカへと渡り、インディアナ大学でバクテリオファージの研究を始めました。その後、カリフォルニア工科大学に移り、マックス・デルブリュックのグループに加わって、動物ウイルス、特に腫瘍ウイルスの研究に没頭します。1952年には、培養細胞を用いた動物ウイルスのプラーク定量法を導入、ウイルス研究に大きな進歩をもたらしました。

ソーク研究所での指導とイギリスでの活動

カリフォルニア工科大学では、後にノーベル賞を受賞するハワード・テミンを指導しました。1962年にはソーク研究所に移り、デビッド・ボルティモアや利根川進といった後進の指導にもあたりました。1972年にはイギリス王立がん研究所に移籍し、研究活動を続けました。

ノーベル賞受賞とヒトゲノムプロジェクト

ドゥルベッコの研究チームは、腫瘍ウイルスが正常細胞に感染すると、ウイルスの遺伝子が細胞のゲノムに組み込まれ、それが細胞のがん化（形質転換）を引き起こすことを明らかにしました。これは、一部のがんの発症メカニズムを解明する大きな一歩でした。特に、レトロウイルスにおいては、テミンとボルティモアが、逆転写酵素によるRNAからDNAへの転写が遺伝子組み込みの第一段階であることを発見しました。この発見は、ドゥルベッコ、テミン、ボルティモアの3名がノーベル生理学・医学賞を受賞する大きな理由となりました。

さらに、レトロウイルスのがん遺伝子と似た遺伝子が正常細胞にも存在し、これが一般的な発がんにも関与することが後に明らかになりました。ドゥルベッコの発見は、現代のがん研究の基礎を築いたと言えるでしょう。彼の研究室には、後にノーベル賞を受賞するポール・バーグやリーランド・ハートウェルも長期滞在し、研究に貢献しました。

1986年にはヒトゲノムプロジェクトの立ち上げにも参画し、ゲノム研究の先駆けとしても重要な役割を果たしました。1993年にはイタリアに帰国し、CNR生物医学研究所所長を務めました。2012年、カリフォルニア州サンディエゴで97歳で逝去しました。

受賞歴

ドゥルベッコの功績は、ノーベル賞以外にも数々の賞で認められています。主な受賞歴は以下の通りです。

1964年 アルバート・ラスカー基礎医学研究賞
1967年 パウル・エールリヒ&ルートヴィヒ・ダルムシュテッター賞
1973年 ルイザ・グロス・ホロウィッツ賞
1974年 セルマン・A・ワクスマン微生物学賞
* 1975年 ノーベル生理学・医学賞

レナート・ドゥルベッコの研究は、ウイルス学、がん研究、そしてゲノム研究に多大な影響を与え、現代医学の発展に大きく貢献しました。彼の業績は、これからも長く語り継がれていくでしょう。

もう一度検索