レニ (映画)

『レニ』（Die Macht der Bilder: Leni Riefenstahl）

1993年にドイツで公開されたドキュメンタリー映画『レニ』は、レイ・ミュラーが監督を務めた作品です。この映画は、20世紀を代表するドイツの映画監督でありながら、国家社会主義ドイツ労働者党（ナチス）のプロパガンダ映画を手がけたことで知られるレニ・リーフェンシュタールの生涯に焦点を当てています。

リーフェンシュタールは、1936年のベルリンオリンピックを記録した『オリンピア』や、ナチスの党大会を扱った『信念の勝利』、『意志の勝利』といった作品で広く知られています。特にこれらのプロパガンダ映画は、映画史の研究者たちの間でも、史上類を見ないほど成功した作品群として評価されています。

このドキュメンタリーの制作は、リーフェンシュタール自身からの提案によって始まりました。人生の晩年を迎え、自伝『回想』の執筆を進めていた彼女は、自身の人生を記録するドキュメンタリー映画の制作も決意したのです。映画の公開は、彼女の90歳の誕生日と、自伝の英語版がアメリカで出版された時期に合わせて行われました。

しかし、「ナチスの映画監督」という過去を持つリーフェンシュタールに関わることへのためらいから、当初この企画は18社もの制作会社に断られました。最終的にレイ・ミュラーが監督を引き受け、契約された時間を大幅に超える、約3時間にも及ぶ長尺のドキュメンタリーが完成しました。

ミュラー監督は、この長さが不可欠であったと語っています。その理由は、リーフェンシュタールを単にナチ体制下で活動した8年間に限定せず、彼女の複雑なパーソナリティを深く理解するために、関連する多くの興味深い出来事や事実を公平に描こうとしたからです。監督は、歴史的な資料映像を織り交ぜることで、リーフェンシュタール自身が作品中で提示する強い自己像を補完し、観客が自身の視点から判断できるよう配慮したと述べています。映画は、人生の最終盤を迎えた歴史的人物、リーフェンシュタールが、若い頃に生み出した物議を醸す作品に対する後年の批判にどのように向き合ったのかを中心に描いています。

本作は公開後、批評家たちから非常に強い反響を呼びました。映画批評サイトのRotten Tomatoesでは95%という高い評価を獲得しています。著名な評論家たちも賛辞を惜しみませんでした。

例えば、ロジャー・イーバートはシカゴ・サンタイムズ紙上で、「この作品は、多くの点で魅力的だ。並外れた人生の物語、偉大な映画芸術家の一人のキャリアの再構築、イデオロギー的な論争の記録、そして驚くべき高齢女性の肖像として」とその多層的な価値を讃えました。

また、ニューヨーク・タイムズのヴィンセント・キャンビーは、「終始引き込まれるドキュメンタリー...この非常に示唆に富む映画は、理想を追い求めた女性の寓話のようだ。リーフェンシュタール女史は、全く異なる世界でそう振る舞い、それが悲劇的な運命へと繋がったのだ」と評し、彼女の生き様と作品の意義について深く考察しました。

『レニ』は、ベルギー、イギリス、ドイツの制作会社の共同出資により生まれ、アメリカ、日本、カナダ、フランスなど複数の国で配給されました。1993年のトロント国際映画祭で初めて上映された後、アメリカ国内のいくつかの映画祭でも上映されました。

アメリカではPBSなどでプライムタイムにテレビ放送され、広く視聴されました。一方、ドイツやオーストリアではテレビ放送に対する反発もあり、放送時間が午後11時以降の深夜帯となるなど、国によって受け止め方に違いが見られました。作品自体は高い評価を受け、1993年の国際エミー賞アート・ドキュメンタリー部門を受賞しました。監督のレイ・ミュラーも、1994年のシアトル国際映画祭でゴールデン・スペース・ニードル賞を受賞しています。本作は、優れたドキュメンタリー映画のリストに頻繁に選ばれており、その歴史的・芸術的価値が認められています。ただし、ドイツ国内ではこのエミー賞受賞があまり強調されない傾向にあることも特筆されます。

このように、『レニ』は、物議を醸した人物の生涯を、彼女自身の視点も交えつつ、多角的かつ公平に描こうとした意欲的なドキュメンタリーであり、その完成度の高さから国際的に高い評価を得た作品と言えます。

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