レムノスのピロストラトス

レムノスのピロストラトスは、ローマ帝国時代に活躍した著述家であり、弁論家としても名を馳せました。彼は「第二次ソフィスト」と呼ばれる、当時の高度な修辞学を駆使した知識人グループの一員でした。特に、彼の著作『エイコネス』（絵画論）は、古代ギリシア美術に対する深い洞察を示すものとして知られています。

ピロストラトスは、同名のアテナイのピロストラトスの甥であり、義理の息子でもあります。さらに、同じく同名で同業の小ピロストラトスの親戚でもあり、彼と区別するために「大ピロストラトス」とも呼ばれます。彼らは皆、弁論術に優れ、文筆活動を通じて名を残しました。

彼の代表作である『エイコネス』は、全2部構成で、第1部がレムノスのピロストラトスの作とされています。しかし、一部ではアテナイのピロストラトスに帰する説も存在します。第2部は小ピロストラトスに帰属すると考えられています。第2部の冒頭には、レムノスのピロストラトスが第1部を著したことを示唆する記述があり、これが第1部の作者を特定する根拠の一つとなっています。

『エイコネス』はエクフラシス（絵画描写）の代表的な作品であり、その中で、ピロストラトスはナポリ郊外の邸宅に展示されていた60点以上の絵画を文章で詳細に描写しています。この作品は、ルネサンス期に大きな影響を与え、特に16世紀のティツィアーノの絵画『ヴィーナスへの奉献』は、『エイコネス』で記述された絵画を再現したとされています。このことからも、『エイコネス』が美術史に与えた影響の大きさが伺えます。

これらの絵画が実際に存在したか否かについては議論がありますが、ゲーテ、ヴェルカー、W.ヘルビヒ、H.ブルンらは実在したと主張しています。一方で、C.G.ハイネらは架空のものであると指摘しています。しかし、実在の有無に関わらず、『エイコネス』の内容が貴重であることに変わりはありません。ピロストラトスのギリシア神話に対する深い知識、画家たちの表現方法の解釈、そして修辞学に富んだ文章表現は、後世の芸術家や研究者たちに大きな影響を与えました。

『エイコネス』は、古代ギリシアの美術観や文化を理解するための重要な資料であり、ピロストラトスの文才と知識が凝縮された作品と言えるでしょう。彼の著作は、単なる絵画の説明にとどまらず、当時の社会や思想を映し出す鏡としても機能しており、その歴史的価値は計り知れません。

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