レンジャー V-770

レンジャー V-770：知られざる航空エンジン

レンジャー V-770 は、1930年代にアメリカのフェアチャイルド・エンジン&エアクラフト社によって開発された航空機用空冷倒立V型エンジンです。同時期に開発された他の高性能エンジンに比べると、生産数は多くありませんでしたが、アメリカ陸軍航空軍の練習機や試作戦闘機に搭載され、その独特な設計思想と堅実な性能で航空史に名を刻んでいます。

開発の経緯

V-770 の開発は、1931年に同社が開発した空冷直列エンジン、レンジャー 6-440 を基に始まりました。当初は「V-770」の名称で設計図に現れ、ヴォート XSO2U-1 偵察機に搭載されて試験運用されました。しかし、初期の試験では、低速飛行時にオーバーヒートしやすいという問題が確認されました。

その後も改良が続けられ、1938年にはカーティス SO3C シーミュウ偵察機に搭載されてテストされましたが、依然として信頼性の問題が解決には至りませんでした。しかし、エンジニアたちの努力によって徐々に改良が進められ、1941年には XAT-14 ガナー試作機に搭載され、その後のフェアチャイルド AT-21 ガナー練習機への採用を決定づけるほどの性能を発揮しました。

設計と特徴

V-770 は、アルミ合金製の2分割クランクケース、アルミ合金製シリンダーヘッド、そして冷却フィンを備えた樽型のシリンダーという構成でした。量産されたV型、直列、空冷エンジンとしては非常に珍しいタイプでした。

1941年から1945年まで生産された V-770 は、そのほとんどがフェアチャイルド AT-21 ガナー練習機（175機）に搭載されました。その他、ベル XP-77 軽戦闘機の試作機にも搭載されています。

各型

V-770 には、いくつかの派生型が存在します。

V-770-4：ヴォート XSO2U-1 偵察機に搭載
V-770-6：XAT-14 ガナー試作機に搭載、ライアン SOR-1 偵察機に搭載予定
V-770-7：ベル XP-77 軽戦闘機の試作機に搭載
V-770-8：カーティス SO3C シーミュウ偵察機に搭載
V-770-9：XAT-6E テキサンの試作機に搭載
V-770-11：フェアチャイルド AT-21 ガナーに搭載
V-770-15：フェアチャイルド AT-21 ガナーに搭載
SGV-770C-1：350 hp 版がカーティス XF6C-7 ホーク戦闘爆撃機に搭載されてテスト
SGV-770D-5：戦後の民間機向けに開発。700 hp ( kW) at 3,600 RPM

スペック (SGV-770C-1)

タイプ：空冷倒立V型12気筒
ボア×ストローク：101.6 mm × 130.2 mm
排気量：12.6 L
全長：1,574.8 mm
全幅：711.2 mm
全高：817.88 mm
乾燥重量：331 kg
動弁機構：2ポペットバルブ/気筒、ギア駆動OHV
スーパーチャージャー：1段1速
燃料供給方式：ホーリー 凍結防止キャブレター
燃料種別：87 オクタン ガソリン
潤滑方式：加圧方式
冷却方式：空冷
馬力：520 hp /3,150 rpm
排気量馬力：0.673 hp/in³
圧縮比：6.5 : 1
馬力重量比：0.71 hp/lb

現存機

カロリナス航空博物館には、修復された V-770 エンジンが展示されています。

航空史における意義

レンジャー V-770 は、その生産数の少なさから、航空史において主要な役割を果たしたとは言えません。しかし、フェアチャイルド AT-21 ガナー練習機のような、特定の航空機にとっては必要不可欠なエンジンでした。また、そのユニークな設計思想は、後の航空エンジン開発に影響を与えた可能性も指摘されています。

もしあなたが航空機やエンジンの歴史に興味をお持ちなら、レンジャー V-770 について調べてみる価値は十分にあります。その背景にある技術的な挑戦や、限られた条件下でのエンジニアたちの創意工夫を知ることで、航空史の奥深さを再発見できるかもしれません。

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