レークセーノール

ギリシア神話の文献をたどると、レークセーノール（古希: Ῥηξήνωρ）という同一の名前を持つ複数の人物像が登場する。この名は長母音を省略してレクセノルとも表記されることがある。

アテーナイ王アイゲウスの姻戚

レークセーノールという名が記録されている人物の一人として、アテーナイを統治した伝説的な王アイゲウスの妻となったカルキオペーの父親がいる。このレークセーノールに関する具体的なエピソードはあまり詳しく伝えられていないものの、アテーナイの王家と姻戚関係を結んだ人物として神話の中にその名が残されている。

パイアーケス人の王ナウシトオスの子

パイアーケス人の伝説的な王ナウシトオスの息子にも、レークセーノールという人物がいる。彼は同じくナウシトオスの息子であり、オデュッセウスを手厚くもてなしたことで知られるアルキノオス王の兄弟にあたる。このレークセーノールは結婚後にアレーテーという娘をもうけたが、運命は彼に長く生きることを許さなかった。彼は、神々の中で最も美しい姿と遠距離射撃の技を持つとされるアポローンの放った矢によって、若くして非業の死を遂げたのである。父ナウシトスよりも先に世を去った彼の残された娘アレーテーは、叔父にあたる兄弟のアルキノオスと結婚し、パイアーケス人の社会で重要な地位を占めることとなった。この一族に関する記述は、ホメロスによる壮大な叙事詩『オデュッセイア』などに登場する。

ディオメーデースの部下

もう一人の著名なレークセーノールは、ミュケーナイ時代の英雄であり、トロイア戦争でアテーナー神の加護のもと活躍したアルゴスの王ディオメーデースに仕えた従者の一員である。ローマの詩人オウィディウスが著した『変身物語』の中で彼の運命が語られている。トロイア戦争が終結した後、ディオメーデース一行は海路を旅していたが、そこで彼らは愛と美の女神アプロディーテーの激しい怒りを買ってしまった。特にディオメーデースの部下の一人であるアクモーンがアプロディーテーに対して無礼な言葉を放ったことが原因とされる。この女神の怒りによって、アクモーンをはじめ、レークセーノール、リュコス、イーダース、ニュクテウスといったディオメーデースの従者たちは、次々と不思議な変身を遂げた。彼らは、美しい白い羽毛を持ち、水上を優雅に泳ぐ白鳥によく似た鳥の姿に変えられてしまったのである。この変身譚は、神々の力と人間の運命の儚さを示すエピソードとして伝えられている。

まとめ

上記のように、ギリシア神話の文献をたどると、レークセーノールという同一の名前を持つ複数の人物像が浮かび上がる。それぞれのレークセーノールは、血縁関係や活躍した舞台、たどった運命が異なっており、彼らの物語は神話の多様性と複雑さの一部を形成している。

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