ロイヤル・パビリオン

ブライトンの至宝：ロイヤル・パビリオン

イギリス、ブライトンに位置するロイヤル・パビリオンは、ジョージ4世（摂政時代はジョージ王子）が、海辺の別荘として建設を始めた王室の離宮です。当初は質素な建物でしたが、彼の好みと莫大な資金を投入した改修によって、現在見られる東洋と西洋が融合した独特の建築様式を持つ宮殿へと変貌を遂げました。

海辺の別荘から豪華宮殿へ

1783年、ジョージ王子はブライトンの海岸の魅力に惹かれ、小さな農園の館を借りることからロイヤル・パビリオンの歴史が始まりました。当時はまだ小さな村でしたが、海水浴療法の普及により保養地として注目を集め始めていたブライトンに王室の別荘が建設されることで、高級リゾート地としての地位が確固たるものとなりました。

当初は新古典主義様式の比較的シンプルな建物でしたが、その後何度かの増改築を経て、1815年から1822年にかけては、ジョン・ナッシュの設計により大規模な改修が行われました。この改修では、インド、イスラム、中国の様式を大胆に融合させた、いわゆる「シノワズリー」様式を取り入れました。ナッシュは、ピクチャレスク運動の中心人物として知られ、多様な様式の調和を重視する折衷主義的な建築に長けていました。その才能が、ロイヤル・パビリオンの異国情緒あふれる独特なデザインを生み出したのです。

東洋と西洋の融合：異文化の織りなす空間

ロイヤル・パビリオンの外観は、クレムリン宮殿を思わせるドームと列柱が印象的です。一方、内部は一転して、竹、龍、蓮、塔といった中国的なシンボルやモチーフが随所に散りばめられ、豪華絢爛な内装が来訪者を魅了します。中国風の絵画や文様、そして西洋の家具や装飾品が調和し、東洋と西洋の文化が絶妙に融合した、他に類を見ない空間を作り上げています。

特に注目すべきは、当時最先端の素材であった鋳鉄を建築構造に大胆に用いている点です。装飾的な柱や階段の手すりなどにも鋳鉄が使われ、一見竹製に見えるほどの細工が施されています。研究者の中には、公共建築において鉄がむき出しで使用された最初の例として、ロイヤル・パビリオンを挙げている人もいます。

快楽王の遊び心と莫大な費用

ジョージ4世は、その豪奢な暮らしぶりから「快楽王」「放蕩王」などと呼ばれていました。ロイヤル・パビリオンの建設と維持にも莫大な費用が投じられ、建築、工芸、ファッション、音楽など様々な芸術分野に貢献した一方、英国王室に多大な経済的負担をもたらしました。彼の華麗なる趣味と遊び心が凝縮されたこの宮殿は、まさに彼の個性と時代を表す象徴と言えるでしょう。

宮殿の構成と日本への影響

ロイヤル・パビリオンは、エントランスホール、サロン、回廊、バンケットルーム（宴会室）、音楽室などを含む大規模な建物です。中でも「キングズ・アパートメント」と呼ばれる王の居室は、その豪華さで知られています。

日本の岩倉使節団がブライトンを視察したことがきっかけで、日本でも海岸リゾート地に別荘を持つことが高官の間で流行しました。ロイヤル・パビリオンの存在が、日本の皇室の御用邸建設においてもシーサイドを候補地として考慮するきっかけになったという説もあります。

結論

ロイヤル・パビリオンは、単なる王室の離宮ではなく、建築史、文化史、そして歴史的にも重要な建造物です。その異国情緒あふれる独特の建築様式と豪華な内装は、見る者を圧倒し、忘れられない体験を与えてくれるでしょう。ブライトンを訪れる際には、ぜひ訪れて、その魅力を体感してください。

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