ロシアのクリスマス

ロシア正教会のクリスマス：歴史、伝統、そして現代

ロシア正教会におけるクリスマスは、イエス・キリストの誕生を祝う重要な祭日です。ユリウス暦を採用しているため、グレゴリオ暦では1月7日にあたります。ロシア正教会では十二大祭の一つに数えられ、厳格な断食期間を経て祝われます。

歴史：信仰と政治の狭間で

ロシアにおけるクリスマスの歴史は古く、10世紀後半、ウラジーミル1世によるキエフ・ルーシのキリスト教化と同時に公的な祝祭となりました。その起源はさらに遡る可能性も示唆されています。19世紀には、ロシア皇后アレクサンドラ・フョードロヴナがプロイセンから持ち込んだクリスマスツリーが、祝日の象徴として定着しました。同時に、子供たちへのプレゼント贈呈という習慣も広まりました。プレゼントを届けるのは、ロシアのサンタクロース的存在であるジェド・マロースです。背が高く痩せた姿で、孫娘のスネグーラチカと共に、三頭の馬が引くソリに乗ってやって来るとされています。

ソビエト連邦時代は、無神論政策によりクリスマスは抑圧されました。クリスマスツリーはブルジョア的なものとして批判され、クリスマスそのものが異教の太陽崇拝とみなされることもありました。1929年には、全ての宗教的祝日の廃止が布告されました。しかし、1935年、スターリン政権下で意外な転換が起きます。厳しい冬の労働から解放する必要性から、クリスマスの伝統は非宗教的な新年の祝いの形として復活を遂げたのです。「新年のモミの木」として、クリスマスツリーはソ連全土で愛されるようになりました。クリスマスのプレゼントやジェド・マロースの訪問なども、世俗的な新年の行事と結びつき、宗教的な意味合いは薄れていきました。

ソ連崩壊後の1991年、クリスマスは他の宗教的祝日と共に復活し、1992年からは公式祝日となりました。しかし、依然として新年の祝いが主要なイベントであり続け、クリスマスは影を潜める傾向にあります。

宗教儀式：厳かな奉神礼

クリスマスイブ（1月6日）には、聖体礼儀と晩課、時課を組み合わせた長時間の奉神礼が行われます。信じる家族は、奉神礼の後、伝統的なクリスマスイブの晩餐を囲みます。クティア、焼き肉、魚、クレビャカ、パスチラなど、12品にも及ぶ料理が供されることもあります。晩餐後、教会に戻り徹夜祷に参加し、クリスマスの朝にも再び教会で奉神礼に臨む人もいます。

伝統料理：豊潤な食卓

ロシアのクリスマスの食卓には、豚の丸焼き、ローストポーク、様々な肉料理、パイ、甘いデザートなどが並びます。ロシアのオーブン「ペチカ」の特性を生かした、大容量の料理が特徴です。パイは、様々な具材を使ったピロシキや、コラーチ、キャセロールなど、種類も豊富です。ベリー類や果物、ハチミツを使ったデザート、カンポットなどの飲み物も、クリスマスの食卓を彩ります。

祝日認定をめぐる論争

クリスマスの祝日認定をめぐっては、憲法裁判所に訴えを起こされるケースもありました。無神論者やネオペイガニズム団体による訴えは、憲法に反するとの主張でしたが、いずれも棄却されています。裁判所は、祝日に関する決定は議会の権限であり、憲法上の問題ではないと判断しました。

現代のロシアのクリスマス

現代のロシアでは、クリスマスは公式の祝日として認められていますが、新年の祝賀行事が依然として社会の中心的なイベントであり続けています。クリスマスツリーやジェド・マロースといった伝統的な要素は、宗教的な意味合いを薄れながらも、新年の祝祭の中に受け継がれ、独特の文化として現代社会に根付いています。クリスマスと新年の祝祭が混在する様子は、ロシアの歴史と社会の複雑さを反映していると言えるでしょう。

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