ロジャー・シャーマン・ホアー

ロジャー・シャーマン・ホアー（1887年4月8日 - 1963年）は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州出身の、法律家、政治家、そして小説家である。特にラルフ・ミルン・ファーリィというペンネームで発表したSF作品は、パルプ雑誌の時代に大きな足跡を残した。彼のキャリアは多岐にわたり、法律分野での貢献とフィクションの世界での創作活動という、一見異なる二つの分野で顕著な功績を挙げている。

ホアーはニューイングランドを代表する名家に生まれた。父はシャーマン・ホアー、祖父はかつてアメリカ合衆国司法長官を務めたエベニーザー・ロックウッド・ホアーであり、さらに先祖には合衆国建国に尽力したロジャー・シャーマンがいる。彼は権威あるハーバード大学で学び、その後の多才なキャリアの基礎を築いた。

法律家としてのホアーは、マサチューセッツ州で司法長官補佐を務めた。また、雇用者失業者手当法の制定においては反対派の立場を取り、Commission to Compile Information & Dataの一員としても活動した。彼は法曹界において重要な著作を複数発表している。例えば、『Constitutional Conventions: Their Nature, Powers, and Limitations』（1917年）は合衆国憲法制定会議について、また『Patents: What a Business Executive Should Know About Patents』（1926年）は特許法に関するものであり、これらは後の版で改訂・再版されている。さらに、彼は数学や工学にも深く通じており、大砲の照準を天体を利用して行うシステムの特許を取得するなど、技術的な知識も兼ね備えていた。

ロジャー・シャーマン・ホアーは、ラルフ・ミルン・ファーリィという筆名でSF小説を執筆した。第一次世界大戦中の時期から、彼は『アーゴシー』、『ウィアード・テイルズ』、『アメージング・ストーリーズ』といった当時の人気パルプ・マガジンに次々と作品を発表した。また、『サイエンティフィック・アメリカン』やSFファンジンには、SFに関連するエッセイなども寄稿している。

ファーリィ名義の作品は、その多くが友人であった作家エドガー・ライス・バローズのスタイルを思わせる、活劇に満ちた冒険譚を特徴としている。中でも、金星を舞台にした「ラジオ・マン」シリーズ（例: 『The Radio Man』（1948年）、『The Radio Beasts』（1964年）など）は代表作として知られる。また、彼は「快楽の館」（The House of Ecstasy、1934年）や短編集『The Omnibus of Time』（1950年）のように、後のSF作品で頻繁に扱われるようになるタイムパラドックスというテーマを初期に掘り下げた作品も発表しており、これらの作品は初出から長年にわたり版を重ねている。

日本においても、「液体インベーダー」（Liquid Life）や前述の「快楽の館」など、ラルフ・ミルン・ファーリィ名義の幾つかの中短編が翻訳され、紹介されている。

ロジャー・シャーマン・ホアーは、法律、政治、技術、そしてフィクションという、一見すると異なる分野で顕著な業績を残した稀有な人物である。その多岐にわたる才能は、彼が生きた時代の社会と文化の多様性を反映しており、特にラルフ・ミルン・ファーリィとしてのSF作家活動は、パルプ時代の冒険SFの重要な一角を担っている。

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