ロスタム

ロスタム：ペルシア叙事詩に輝く英雄、その栄光と悲劇

ロスタム（ペルシア語: رستم、Rostam）は、ペルシアの叙事詩『シャー・ナーメ』（王書）に登場する伝説的な英雄です。イラン最大の叙事詩である『シャー・ナーメ』の中でも、ロスタムは最も偉大な英雄の一人とされ、その勇壮な活躍と悲劇的な生涯は、世界中で語り継がれています。

英雄の血筋

ロスタムは、英雄ザール（白髪のザール）と、カブールの王女ルーダーベの間に生まれました。母方の祖母が蛇王ザッハークの血を引いているため、ロスタムは英雄の家系であるナリーマン家でありながら、同時に悪の血も受け継いでいるという複雑な背景を持っています。

ロスタムは、巨象のような体格を持ち、その姿はしばしば獅子に例えられます。しかし、彼の突出した点は体格だけではありません。勇気、知略、そして卓越した武術の腕前は、イラン全土で比肩する者がいないほどでした。特に、彼の投げ縄の技術は神業とまで称されました。700年にも及ぶ生涯において、ロスタムはイランを守るため、宿敵トゥーラーンとの戦いや、数々の怪物との戦いに身を投じました。彼はまた、「七道程（ハフト・ハーン）」と呼ばれる七つの試練を乗り越え、ペルシア最大の英雄としての地位を確立しました。

誕生の物語

ロスタムの誕生は、まさに伝説的です。母ルーダーベの胎内で異常なほど成長したため、通常の出産が不可能となりました。そこで、父ザールの育ての親である霊鳥スィーモルグの力を借り、帝王切開によって無事に出産します。難産の末、ルーダーベは「わたしは救われ（ロスタム）、悲しみが終わった」と語り、この言葉が赤子に「ロスタム」という名前を与えるきっかけになったと伝えられています。ロスタムは、生まれたときから成人男性ほどの背丈があり、幼少期には片手でメイスを振るい、巨象を打ち倒したという逸話も残っています。

七道程（ハフト・ハーン）：英雄の試練

成長したロスタムは、曽祖父ナリーマンの仇を討つためスィパンド城を攻略し、その後もたびたびトゥーラーンの侵略を撃退して、その名を轟かせました。ある時、イラン国王カーウースが白鬼（Div-e-Sepid）との戦いで苦境に陥った際、ロスタムは王を救出するため、七つの試練に挑むことになります。これがロスタムの偉業の一つ、「七道程」です。

第一道程：ラクシュと獅子の戦い

ロスタムの愛馬ラクシュが、主人の代わりに獅子と戦います。旅の途中、疲れて眠るロスタムを襲おうとした獅子に対し、ラクシュは勇敢に立ち向かい、獅子を打ち倒しました。ラクシュは、「竜馬」と称されるほど巨大で、怪力無双のロスタムの体重にも耐えうる唯一の馬でした。

第二道程：灼熱の砂漠

水のない砂漠で、ロスタムは渇きに苦しみ、死にかけます。しかし、神に祈りを捧げると、一匹の牝羊が現れました。ロスタムは、近くに水場があると確信し、牝羊の後を追って水場を発見し、命拾いをしました。

第三道程：ロスタムと龍の戦い

水場で休息していたロスタムは、龍に襲われます。龍は、悪鬼すら近づかない危険な場所に潜んでいました。ラクシュがロスタムを起こしますが、龍は姿を隠してしまいます。何度目かの襲撃で、ついにロスタムは龍の姿を捉え、激しい戦いの末、ラクシュとの連携で龍を打ち倒しました。

第四道程：ロスタムと魔女

魔物の国に足を踏み入れたロスタムは、泉のほとりで休息を取ります。そこには酒とギターが置かれており、ロスタムが歌い始めると、美しい女性が現れました。意気投合した二人は親しくなりますが、ロスタムが神の名を口にした途端、女性の顔色が変わりました。不審に思ったロスタムは、投げ縄で女を拘束すると、女は醜い老婆の姿を現しました。ロスタムは魔女を剣で斬り捨てました。

第五道程：どこまでも続く闇の世界

星も月もない闇の世界で、ロスタムはラクシュに手綱を任せて進みます。やがて、太陽の光が差し込む世界にたどり着き、そこで出会った領主ウーラードを捕虜にし、道案内をさせました。

第六道程：ロスタムと悪鬼アルザングとの戦い

悪鬼の陣営を発見したロスタムは、指揮官アルザングに突撃し、捕獲すると、その場で頭と胴体を真っ二つに引き裂きました。指揮官を失った悪鬼の群れは、ロスタムによって蹴散らされ、カーウース王は無事に救出されました。

第七道程：ロスタムと白鬼の戦い

カーウース王は救出されたものの、牢の暗闇のために視力を失っていました。王の視力を回復させるには、白鬼の脳と血を飲ませる必要がありました。ロスタムは、白鬼との決戦に臨み、激闘の末、白鬼を打ち倒し、王の視力を回復させることに成功しました。

ソフラーブとの悲劇

ロスタムは、トゥーラーンの属国であるサマンガーンで、美女タハミーネと出会い、息子ソフラーブをもうけます。ソフラーブは、父が誰であるかを知らずに成長し、トゥーラーンのためにイランと戦うことになります。タハミーネから父の素性を知らされたソフラーブでしたが、すでにトゥーラーンの戦士としてイランと戦っており、後戻りできません。ソフラーブは、イランのカーウース王を倒し、父ロスタムをイラン王にしようと計画し、イランとの戦いを続けます。イランは、ソフラーブに対抗するため、ロスタムを戦場に呼び出します。老英雄となったロスタムを見たソフラーブは、彼が父ではないかと疑い素性を尋ねますが、ロスタムは正体を隠し、親子は互いの素性を知らないまま、三日間にわたる激闘を繰り広げます。戦いの末、ロスタムはソフラーブに致命傷を負わせますが、瀕死のソフラーブから自分が息子であることを告げられ、ロスタムは絶望に打ちひしがれます。

イスファンディヤールとの戦い

イランの王がゴシュタースプ王に代わった頃、ゴシュタースプ王は王子イスファンディヤールに「ロスタムを倒したら王位を譲る」と約束します。ロスタムは、イスファンディヤールとの戦いで苦戦を強いられますが、霊鳥スィーモルグから、イスファンディヤールを殺した者には呪いがかかること、そして、タマリスクの二股の矢で両目を射抜けば殺せることを教えられます。ロスタムは和平交渉を試みますが、決裂し、やむなくイスファンディヤールを殺害してしまいます。この時から、ロスタムの栄光に満ちた人生は、破滅へと向かい始めます。

最期

ロスタムは、腹違いの弟シャガードの策略によって、落とし穴に落とされ、ラクシュとともに瀕死の重傷を負います。しかし、ロスタムは死の間際、シャガードを射殺し、その生涯を終えました。

ロスタムは、ペルシア叙事詩における最大の英雄の一人として、今もなお語り継がれています。彼の勇気、知略、そして悲劇的な運命は、人々に深い感動を与え続けています。

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