ロックンロールにゃ老だけど死ぬにはチョイと若すぎる

ジェスロ・タルの1976年発表アルバム『ロックンロールにゃ老だけど死ぬにはチョイと若すぎる』（原題：Too Old to Rock 'n' Roll: Too Young to Die!）は、バンドのキャリアにおいて重要な位置を占める作品です。キンクスのロックオペラに影響を受けた本作は、当初ミュージカルのサウンドトラックとして企画されましたが、最終的にはアルバムとして発表されることになります。

アルバムの中心となるのは、レイ・トーマスという架空の老いた元ロックスターの物語です。彼はオートバイ事故で重傷を負い、昏睡状態から目覚めた後、ファッションリーダーとして華麗な復活を遂げます。この物語は、アルバムに同梱されたコミックストリップで詳細に描かれていますが、楽曲の歌詞は必ずしもその筋書きに忠実ではありません。一部は省略され、プロットに変更が加えられている部分もあるのです。バンドリーダーであるイアン・アンダーソン自身も、後にこの物語が自身の自伝ではないと明言しており、聴き手の解釈に委ねられた部分も存在します。

本作は、バンドの音楽性においても転換点となりました。元カルメンのジョン・グラスコックがベーシストとして加入し、バンドの正式メンバーとして初めてバッキングボーカルにも参加しています。これは、ジェスロ・タルのサウンドに新たな深みと広がりをもたらしました。

商業的な成功という点では、アメリカではBillboard 200で21週に渡りチャートインし、最高14位を記録するなど一定の成果を収めました。しかし、イギリスではトップ100入りしたものの最高25位と、ジェスロ・タルのスタジオアルバムとしては初めてトップ20入りを逃す結果となりました。このことは、アメリカとイギリスにおけるバンドの人気や評価の違いを示唆していると言えるでしょう。

音楽評論家からの評価も様々です。オールミュージックのDave Slegerは5点満点中3点を付け、「歌詞のテーマにもかかわらず、本作は往年のタルが『アクアラング』や『ベネフィット』で開拓したスタイルに戻ったかのような、優れたロックソングのコレクションである」と評しています。また、大作やポップ色の強い楽曲、複雑な構成の楽曲は少ないことも指摘しており、本作が比較的ストレートなロックアルバムであることを示唆しています。

収録曲は全てイアン・アンダーソンが作曲し、個性豊かな10曲が収録されています。「クイズ・キッド」「狂人協会」「サラマンダー」「タクシー泥棒」「フロム・ア・デッド・ビート・トゥ・アン・オールド・グリーザー」「バッド・アイド・アンド・ラヴレス」「ビッグ・ディッパー」「ロックンロールにゃ老だけど死ぬにはチョイと若すぎる」「パイド・パイパー」「チェッカード・フラッグ」といったタイトルからも、アルバムの多様な音楽性が窺えます。2002年のリマスター盤にはボーナス・トラックとして「ア・スモール・シガー」と「ストリップ・カートゥーン」が追加収録されています。

演奏陣は、イアン・アンダーソン（ボーカル、フルート、ギター、パーカッションなど）、マーティン・バー（ギター）、ジョン・エヴァン（ピアノ）、ジョン・グラスコック（ベース、バッキング・ボーカル）、バリモア・バーロウ（ドラムス、パーカッション）といった主要メンバーに加え、オーケストラアレンジやバッキングボーカルで数多くのミュージシャンが参加しています。

『ロックンロールにゃ老だけど死ぬにはチョイと若すぎる』は、商業的な成功だけでなく、バンドの音楽性や方向性を示す上で重要なアルバムであり、ジェスロ・タルの歴史を語る上で欠かせない作品と言えるでしょう。物語、音楽性、メンバーチェンジなど様々な要素が絡み合い、多角的な解釈を許容する、魅力的な一枚です。

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