ロバート・マリケン

ロバート・サンダーソン・マリケン：分子軌道法のパイオニア

ロバート・サンダーソン・マリケン (1896年6月7日-1986年10月31日) は、アメリカ合衆国の著名な化学者であり、分子軌道法の開発における先駆的な貢献により、1966年にノーベル化学賞を受賞しました。彼の研究は、化学結合の理解と分子の電子構造の解明に革命をもたらしました。

科学への道：初期の経歴から戦争への関与

マサチューセッツ州ニューベリーポートに生まれたマリケンは、有機化学の教授であった父親サミュエル・マリケンの影響を受け、科学への道を歩み始めました。マサチューセッツ大学卒業後、第一次世界大戦下のアメリカで、ワシントンD.C.の大学においてジェームス・コナントの下で毒ガスの研究に従事しました。その後、徴兵され、軍隊でも同様の研究を続けました。

シカゴ大学での研究と量子力学との出会い

戦後、マリケンはシカゴ大学大学院に進学し、ロバート・ミリカンのもとで水銀同位体の分離に関する研究を行いました。1925年から1927年にかけてはヨーロッパに留学し、当時の量子力学の最先端をいく研究者たちと交流を深めました。この留学期間が、彼の科学的キャリアにおける重要な転換点となりました。

分子軌道法の確立とフントとの協働

1927年、マリケンはフリードリッヒ・フントと共同で、分子軌道法に関する重要な理論を発表しました。これは、フント–マリケンの理論として知られており、分子内の電子の挙動を記述する上で画期的な進歩でした。それまで、分子の電子構造は主に原子価結合法を用いて説明されていましたが、マリケンは量子力学的アプローチを用いて分子軌道法を確立し、その適用範囲を大幅に拡大しました。

物理と化学の境界領域における貢献

1926年から1928年まではニューヨーク大学の物理学科で教鞭をとり、物理学者としての高い評価も得ていました。しかし、彼の研究は物理学と化学の境界領域にまたがるものでした。ハイトラーとロンドンによる水素分子の電子構造計算、そしてスレーターとポーリングによる原子価結合への改良を踏まえ、マリケンはレナード＝ジョーンズの量子力学的取り扱いを応用することで、分子軌道法をさらに発展させました。

電気陰性度の定義とシカゴ大学での長期在職

1934年、マリケンは電気陰性度の新たな定義を提案しました。これは、化学結合における原子の相対的な電子吸引力を定量的に評価する上で重要な概念となりました。1931年から1985年まで、シカゴ大学教授として長年にわたり活躍し、1961年にはDistinguished Service Professorに任命されました。1953年には、国際理論物理学会の開催で日本を訪れています。

数々の受賞と科学界への永続的な影響

マリケンの業績は高く評価され、数々の賞を受賞しました。1963年にはピーター・デバイ賞、1965年にはウィラード・ギブズ賞を受賞し、そして1966年にはノーベル化学賞を受賞しました。さらに、1983年にはプリーストリー賞を受賞するなど、科学界への貢献は計り知れません。彼の分子軌道法に関する研究は、現代化学の基礎を築き、化学結合の理解を深める上で重要な役割を果たし続けています。彼の功績は、現代化学においてもなお、絶大な影響を与え続けているのです。1967年には王立協会外国人会員にも選出されました。マリケンの生涯と研究は、科学における探究心と革新の精神の輝かしい例として、後世に語り継がれるでしょう。

もう一度検索