ロベルト・カンピン

ロベルト・カンピン：初期フランドル派の巨匠

ロベルト・カンピン（Robert Campin, 1375年頃 - 1444年4月26日）は、初期フランドル派を代表する画家の一人です。彼は「フレマールの画家」という異名でも知られ、その作品は後の絵画に多大な影響を与えました。カンピンは、当時の絵画技法に革新をもたらし、写実的で立体感のある表現を追求しました。

生涯

カンピンの生涯に関する記録は比較的残されていますが、確実なカンピンの作品と断定できるものは現存していません。1405年から1406年の記録に、トゥルネーの画家ギルドに所属していたことが記されています。1410年にはトゥルネーの市民権を取得しており、トゥルネー出身ではないと考えられています。カンピンはギルドの理事を務めるなど、社会的地位も高く、大規模な工房を運営していました。

しかし、1432年頃に政治的混乱に関与したことで社会的地位を失い、密通の罪で一時追放処分を受けました。後にマルグリット・ド・ブルゴーニュの介入により罰金刑に減刑されました。1438年には『ウェルル祭壇画』の制作記録があり、晩年まで画家として活動していたことがわかります。

スタイルと作品

カンピンの絵画は、当時の装飾写本画家の影響を受けつつも、より徹底した写実性を追求した点が特徴です。彼は、それまでのテンペラに代わり、新しい油絵具を使いこなし、美しい色彩と明暗を表現しました。油彩技法により、絵画に立体感や遠近感を与えることに成功しました。しかし、ヤン・ファン・エイクのような複雑な寓意象徴主義が、カンピンの作品にも見られるのかについては議論が分かれています。

美術史家たちは、北方ルネサンスの起源を探求する中で、長らくヤン・ファン・エイクこそが装飾写本絵画からパネル絵画への革新者だと信じてきました。しかし、19世紀末には、ファン・エイクと同時代の他の画家たちも同様のスタイルで描いていたことが明らかになりました。

カンピンの代表作とされる『メロードの祭壇画』は、1428年頃に制作されたと推定されています。この三連祭壇画は、メトロポリタン美術館別館のクロイスターズに所蔵されており、細部まで写実的に描かれています。また、フレマール由来とされるパネル絵も存在し、これらのパネル絵は同一人物によって描かれたと考えられており、その人物が「フレマールの画家」と呼ばれています。しかし、当時は誰が描いたのか特定できませんでした。

20世紀になると、「フレマールの画家」はロベルト・カンピンではないかという説が有力になりました。その根拠として、カンピンの弟子であるジャック・ダレーとロヒール・ファン・デル・ウェイデンの作品が、フレマールの画家の作品と酷似している点が挙げられます。しかし、フレマールのパネル絵群は、ファン・デル・ウェイデンが20代の頃に描いた可能性も否定できません。また、一部の美術史家は、ファン・デル・ウェイデンの代表作である『十字架降架』もカンピンの作品だと考えています。

カンピンの作品として挙げられるものには、ディジョンの『キリスト降誕』、フランクフルトの『十字架上の盗賊』、ロンドンのナショナル・ギャラリーにある『男性と女性の肖像』、ロンドンのコートールド・ギャラリーにある『キリストの埋葬』などがあります。『キリストの埋葬』は、カンピンの工房の作品または模倣作と見なされることもありますが、美術史家のローナ・キャンベルはカンピンの作品としています。

『メロードの祭壇画』

カンピンは、1425年から1428年頃に、個人の依頼で『メロードの祭壇画』を描きました。中央パネルには、「受胎告知」の場面が描かれ、大天使ガブリエルが聖母マリアに語りかけようとする様子が描かれています。聖母マリアの部屋は、当時のフランドル中流階級の生活様式を反映した写実的な描写がなされています。

結論

ロベルト・カンピンは、初期フランドル派の絵画に大きな影響を与えた重要な画家です。その生涯や作品については、いまだに議論の余地がありますが、油彩技法を駆使した写実的な表現は、後世の画家たちに多大な影響を与えました。「フレマールの画家」との関係も、彼の絵画を理解する上で重要な要素です。

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