ロベール＝フランソワ・ダミアン

ロベール＝フランソワ・ダミアン（Robert-François Damiens、1715年1月9日 - 1757年3月27日）は、18世紀フランスにおいて、時の国王ルイ15世に対する暗殺未遂事件を起こし、その罪により極めて残酷な八つ裂きの刑に処せられた人物です。

生い立ちと経歴

ダミアンは1715年、フランス北部のアルトワ地方、アラス近郊の小さな村で、10人兄弟姉妹の8番目として生まれました。彼の父は日雇いの農夫や、時に刑吏として生計を立てていました。幼少期をベチューヌに住む叔父のもとで過ごしたとされています。若い頃には軍に入隊し、1734年のフィリップスブルク包囲戦に一介の兵士として従軍した経験があります。除隊後、パリに出てイエズス会が運営するルイ＝ル＝グラン学院で召使いとして働いていましたが、金銭を横領して逃亡したと記録されています。

思想的背景と犯行の動機

ダミアンは、当時のフランス社会に深く根差していた宗教的対立、特にカトリック教会内部のジャンセニスム論争に強い影響を受けていました。彼はジャンセニスムに共感を寄せていたとされ、ローマ教皇クレメンス11世によるジャンセニスム、特にその一派である痙攣派への弾圧や、それを支持するフランス国王ルイ15世に対する反感を抱いていました。当時の特定の宗教観念から、国王を刃物で傷つけ、その血の色を確認することで罪の深さを判断しようとしたとも伝えられています。

暗殺未遂事件

1757年1月5日、ダミアンはヴェルサイユ宮殿において、馬車に乗ろうとしていたルイ15世に刃物で襲いかかりました。厳冬期で国王が厚手の衣服を着用していたため、傷は浅く、国王は命に別状ありませんでした。ダミアンはその場で逃走を試みることなく拘束されました。

逮捕、裁判、そして判決

逮捕されたダミアンは、共犯者や黒幕がいると疑われ、苛烈な拷問による尋問を受けました。しかし、彼の犯行は誰の指示も受けない単独でのものであり、拷問の苦痛から逃れるために辻褄の合わない人物名を挙げたとされています。まもなく、彼はパリのコンシェルジュリー牢獄に移送されました。皮肉なことに、彼は約150年前にアンリ4世を刺殺したフランソワ・ラヴァイヤックが収監されていたのと同じ独房に入れられ、引き続き拷問を受けました。審理の結果、パリ高等法院は彼に対し、当時のフランスで最も重罪人に科される刑罰である八つ裂きの刑による死刑判決を下しました。刑の執行場所は、パリ市内のグレーヴ広場（現在のパリ市役所前広場）と定められました。

凄惨な処刑

1757年3月27日、宣告された刑が執行されました。執行を担当したのは、著名な死刑執行人一族であるサンソン家のシャルル＝アンリ・サンソンとその父ニコラ＝シャルル・ガブリエル・サンソンでした。処刑は、犯行に使用された右腕をまず焼灼することから始まりました。次に、ペンチで体の肉を引き裂かれ、その傷口には熱した油や溶けた鉛が流し込まれるという、想像を絶する苦痛が与えられました。最終的に、手足に切り込みを入れられた上で、四頭の馬によって身体を四方に引き裂かれ、絶命しました。遺された胴体は、見せしめとして焼却されました。

処刑後の影響と歴史的意義

ダミアンの処刑は、当時の社会に大きな衝撃を与えました。その凄惨さから、イングランドで火薬陰謀事件の首謀者として同様の刑に処されたガイ・フォークスになぞらえて語られることもありました。また、刑執行後、ダミアンの自宅は徹底的に破壊されて更地とされ、彼の兄弟姉妹は改名を強いられるなど、家族にも過酷な処分が下されました。父、妻、娘はフランス国外への追放処分を受けました。

このダミアンの処刑は、近代以前の公開処刑や拷問刑の象徴的な事例として、後世の思想家や歴史家によって論じられることになります。特に、哲学者ミシェル・フーコーは、その著書『監獄の誕生』の中で、ダミアンの処刑の詳細な描写から論を起こし、規律権力の誕生という観点から近代社会における刑罰のあり方の変遷を分析する重要な事例として、この事件に言及しています。彼の事件は、フランス革命前夜における社会の動揺や、旧体制（アンシャン・レジーム）下の刑罰のあり方を理解する上で、重要な史実として位置づけられています。

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