ロメオとジュリエット (チャイコフスキー)

チャイコフスキー：幻想序曲『ロメオとジュリエット』

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーが作曲した『ロメオとジュリエット』は、シェイクスピアの同名戯曲を題材とした演奏会用序曲です。1869年9月から11月にかけて書かれ、1870年に初演。その後も改訂が重ねられ、現在の形になったのは1881年です。チャイコフスキーの初期の傑作と称えられることも多く、彼の才能を世に知らしめた重要な作品の一つと言えるでしょう。

作曲の背景

チャイコフスキーは、ロシアの作曲家グループ「5人組」のリーダー格であるミリイ・バラキレフと親交を深めていました。バラキレフはチャイコフスキーの作品に助言を与え、その関係の中で『ロメオとジュリエット』の作曲が提案されたとされています。バラキレフからの具体的な助言や、作曲過程における手紙のやり取りなど、二人は緊密に協力して作品を完成させていきました。第1稿から第3稿（最終稿）へと改訂を重ね、最終的に「幻想序曲」というタイトルが付けられました。

音楽の詳細

演奏時間は約20分（初稿は約17分）と、オーケストラ作品としては適度な長さです。オーケストラ編成は、ピッコロ、フルート2、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、ハープ、弦五部と、非常に大規模です。

楽曲は、大きく分けて序奏と主部、終結部から構成されています。

序奏: クラリネットとファゴットが、荘重なコラール風の旋律を奏で、修道僧ロレンスの存在感を示唆します。嬰ヘ短調、アンダンテ・ノン・タント・クヮジ・モデラート、4/4拍子です。
主部: ロ短調のアレグロ・ジュストで、ソナタ形式に基づいています。モンタギュー家とキャピュレット家の対立を象徴する激しく対照的な主題が、弦楽器と管楽器の激しい掛け合いによって表現されます。その後、変ニ長調に転調し、コールアングレと弱音器付きヴィオラによる甘美な旋律が、ロメオとジュリエットの恋を描きます。この主題は、二人の葛藤や別れを惜しむ場面など、様々な場面で用いられ、劇的な展開を盛り上げます。第1主題と第2主題が対比的に、そして複雑に絡み合いながら、物語のクライマックスへと導かれます。劇的なクライマックスの後、ロメオとジュリエットの死が、鋭い音やティンパニのロールによって表現されます。
終結部: モデラート・アッサイの悲しげな終結部では、ティンパニの刻みに重なるように悲しげな第2主題が奏でられ、ロ長調で木管楽器が天に召される二人の様子を清らかに奏でます。最後はトゥッティの緊迫した和音で幕を閉じます。

チャイコフスキーの他の幻想序曲

チャイコフスキーは、この『ロメオとジュリエット』以外にも、シェイクスピアの戯曲を題材とした幻想序曲を2曲作曲しています。

幻想序曲『あらし（テンペスト）』（作品18、1873年）
* 幻想序曲『ハムレット』（作品67a、1888年）

これらの作品と合わせて聴き比べることで、チャイコフスキーの音楽表現の幅広さを感じ取ることができるでしょう。

『ロメオとジュリエット』は、ドラマティックな展開と美しい旋律、そしてオーケストラの豊かな響きが織りなす、聴く人を魅了する名曲です。シェイクスピアの戯曲の世界を音楽を通して体験できる、忘れ難い作品と言えるでしょう。

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