ロルフ・キューン

ロルフ・キューン (Rolf Kühn, 1929年9月29日 - 2022年8月18日) は、ドイツ、ケルンに生まれたジャズ・クラリネット奏者であり作曲家です。クラリネット演奏を主軸としつつ、アルトおよびテナー・サクソフォーンも巧みに操りました。彼は生涯を通じてドイツのジャズシーンにおいて中心的な存在であり続けました。

彼の音楽的キャリアは、クラシック音楽の道から始まりました。東ドイツのライプツィヒ音楽院で、当初はピアニストを目指して研鑽を積んでいましたが、1941年にクラリネットへと専門を転向します。プロの音楽家としての第一歩は、1950年にウェルナー・ミューラー・オーケストラに参加し、デビューを果たしたことでした。

1952年に西ドイツへ活動の場を移した後、1956年にはジャズの本場、アメリカ合衆国へ渡ります。滞米期間中、彼は国際的なジャズコミュニティでその才能を開花させました。日本のジャズ・ピアニストである秋吉敏子や、ヴィブラフォン奏者として知られるエディ・コスタといった、多様なバックグラウンドを持つミュージシャンたちとの共演は、彼の音楽性に新たな広がりをもたらしました。特に、スウィング時代を代表する伝説的なクラリネット奏者、ベニー・グッドマンの楽団に在籍した経験は、彼にとって貴重な財産となりました。

1961年にドイツへ帰国したロルフ・キューンは、国内での活動を本格化させ、北ドイツ放送オーケストラのバンドリーダーを務めるなど、リーダーシップを発揮します。この時期、アメリカで直接触れたジョン・コルトレーンをはじめとする革新的なモダンジャズからの影響は、彼の音楽スタイルに深く浸透していきました。1964年に録音されたアルバム『ソラリウス』は、当時モダンジャズで注目を集めていたモード奏法を自身のクラリネット演奏に取り入れ、独自のサウンドを確立した彼の代表作として高く評価されています。さらに、翌年のアルバム『Re-Union in Berlin』では、より自由奔放な表現手法であるフリー奏法を積極的に導入するなど、常に音楽的な探求を続け、挑戦的な作品を次々と世に送り出しました。

1970年代以降も、彼の活動は国際的な広がりを見せました。サクソフォーン奏者のジョン・サーマンやフィル・ウッズといった世界的に著名なジャズミュージシャンたちとの共演を重ね、MPSレコードなどのレーベルから数多くのアルバムをリリースしました。これらの録音は、彼の多才さと創作意欲の高さを示しています。晩年に至るまでその音楽活動は衰えることなく、現代ジャズの巨匠とされるオーネット・コールマンやデイヴ・リーブマンといった後進のミュージシャンとも共演を行うなど、世代やジャンルを超えた交流を通じて、常に新しい音楽表現の可能性を追求し続けました。

ロルフ・キューンには、国際的に活躍するジャズ・ピアニストの弟、ヨアヒム・キューンがいます。兄弟は音楽家として強い絆で結ばれており、共に多くの共作アルバムを発表しました。彼らの共同での音楽制作は、ドイツジャズ史においても特筆すべき兄弟コラボレーションとして記憶されています。

クラシック音楽の素養を基盤に持ちながらも、ジャズの自由な精神とモダンジャズの多様なスタイルを積極的に取り入れ、クラリネットという楽器の既成概念を打ち破り、その可能性を広げたロルフ・キューンは、まさにジャズ界の革新者でした。その長いキャリアを通じて見せた精力的な活動と、絶えず新しい表現を追い求める探求心は、ドイツジャズ界のみならず、世界のジャズシーンに確かな足跡を残し、多くの後進ミュージシャンに影響を与えています。

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