ヨアヒム・キューン

ヨアヒム・キューン

ヨアヒム・キューン（Joachim Kühn）は、1944年3月15日にドイツで生まれた、国際的に評価されるジャズ・ピアニストです。

幼少期から音楽への並外れた才能を示し、アーサー・シュミット・エルシーのもとでクラシック・ピアノと作曲の基礎を深く学びました。その後、コンサート・ピアニストとして活動を開始しましたが、クラリネット奏者である兄ロルフ・キューンの影響を受け、ジャズの世界に強い関心を持つようになります。

1961年にはプロのジャズ・ミュージシャンとして歩み始め、早くも1964年には自身のトリオを結成。東ドイツにおいて初めてフリー・ジャズの演奏を披露し、当時の音楽シーンに新たな潮流をもたらしました。1966年に東ドイツを離れてハンブルクに拠点を移した後も、精力的な活動を続けます。兄ロルフと共にニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演するなど、国際的な舞台での活躍の機会も増え、ボブ・シールのインパルス！レコードでは、著名なベーシスト、ジミー・ギャリソンとの録音も行いました。

1968年以降はフランスのパリへと移住し、音楽的な視野をさらに広げます。このパリでの時期には、ドン・チェリー、カール・ベルガー、スライド・ハンプトン、フィル・ウッズ、ミシェル・ポルタル、バール・フィリップス、エイエ・テリン、レイ・レマ、ヘルムート・ハトラー、ジャン＝リュック・ポンティといった、ジャズ界や現代音楽界の第一線で活躍する多くのミュージシャンたちと交流し、共演しました。また、ピエール・クルボワ率いる「アソシエイション P.C.」への参加を通じて、電子キーボードの可能性を探求し始め、その後の彼の音楽性に多様性をもたらす重要な転換期となりました。

1970年代後半にはアメリカ、特に西海岸カリフォルニアへと活動の拠点を移し、当時のフュージョン・シーンに深く関わります。ここでは、アルフォンス・ムゾーン、ビリー・コブハム、マイケル・ブレッカー、エディ・ゴメスといったフュージョンの代表的なアーティストたちとレコーディングを行い、その時代ならではの革新的なサウンドを追求しました。

再びパリ近郊に定住してからは、アコースティックな響きへと回帰する傾向を見せます。1985年からは、ベーシストのジャン・フランソワ・ジェニー・クラークとドラマーのダニエル・ユメールという鉄壁のリズムセクションと共に、アコースティック・トリオでの活動を再開し、円熟した演奏で多くの聴衆を魅了しました。1996年の夏には、ジャズ界の巨人オーネット・コールマンと彼の提唱する「Diminished Augmented System」のもとで共演するという貴重な機会を得て、ヴェローナとライプツィヒのフェスティバルで記憶に残るコンサートを行っています。

キャリアを通じて常に新たな表現を求め続けるキューンは、2015年にはクリス・ジェニングス（ベース）とエリック・シェーファー（ドラム）と共に新しいヨアヒム・キューン・トリオを結成し、現在も精力的な活動を続けています。その長いキャリアの中で、彼は様々なスタイルとフォーマットで数多くの録音を残しており、彼の音楽的な遺産は豊かです。

なお、2019年6月25日に『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』が報じたところによると、2008年のユニバーサル・スタジオ火災によって、彼のマスター音源の一部が失われた可能性が指摘されています。

リーダー・アルバム（一部）

Impressions of New York (1968年)
『変容』 - Transfiguration (1967年)
『サウンド・オブ・フィーリングス』 - Sound of Feelings (1969年)
『ボールド・ミュージック』 - Bold Music (1969年)
『パリ・イズ・ワンダフル』 - Paris Is Wonderful (1970年)
『ソロ』 - Solos (1971年)
『ピアノ』 - Piano Solo (1972年)
Interchange (1972年)
This Way Out (1973年)
Cinemascope (1974年)
Duo In Paris (1975年) ※with マーシャル・ソラール
『ヒップ・エレジイ』 - Hip Elegy (1976年)
Solo Now (1976年) ※with アルベルト・マンゲルスドルフ、ギュンター・ハンペル、ピエール・ファーヴル
『スプリングフィーヴァー』 - Springfever (1976年)
Charisma (1977年)
『サンシャワー』 - Sunshower (1978年)
Snow in the Desert (1980年)
United Nations (1981年)
『ナイトライン・ニューヨーク』 - Nightline New York (1981年)
I'm Not Dreaming (1983年)
『ドント・スプリット』 - Don't Split (1983年)
Distance (1984年)
『イージー・トゥ・リード』 - Easy to Read (1985年)
『ヴァンドルンゲン』 - Wandlungen - Transformation (1986年)
『フロム・タイム・トゥ・タイム・フリー』 - From Time to Time Free (1988年)
Dark (1988年) ※with Walter Quintus
Situations (1988年)
『ライブ・イン・パリ、1989』 - Live: Théâtre De La Ville, Paris, 1989 (1989年)
『ダイナミックス』 - Dynamics (1990年)
『レッツ・ビー・ジェネラウス』 - Let's Be Generous (1990年)
Get Up Early (1991年) ※with Walter Quintus
『カランボラージュ』 - Carambolage (1991年)
Usual Confusion (1993年)
Famous Melodies (1993年)
Abstracts (1994年)
『プレイズ・リリー・マルレーン』 - Joachim Kühn Plays Lili Marleen (1994年)
『ヨーロピアーナ』 - Europeana (1994年)
Colors: Live from Leipzig (1996年) ※with オーネット・コールマン
『三文オペラ』 - Die Dreigroschenoper - L'Opera De Quat' Sous - The Threepenny Opera (1996年)
Generations from (East) Germany (1997年) ※with Connie Bauer
Triple Entente (1998年)
The Diminished Augmented System (1999年)
Universal Time (2002年)
Bach Now - Live (2002年) ※with トーマス教会少年合唱団
Piano Works I: Allegro Vivace (2005年)
Poison (2005年) ※with Jean-Paul Celea、Wolfgang Reisinger
Journey to the Centre of an Egg (2005年) ※with ラビ・アブ＝カリル、Jarrod Cagwin
『サバイバー』 - Survivor (2005年)
Sometime Ago (2005年)
Kalimba (2007年) ※with Majid Bekkas
『ライブ・イン・ヨーロッパVol.1』 - Live in Europe Vol.1 (2006年)
『ライブ・イン・ヨーロッパVol.2』 - Live in Europe Vol.2 (2007年)
Piano Works IX: Live at Schloss Elmau (2008年) ※with Michael Wollny
Out of the Desert (2008年) ※with Majid Bekkas、Ramón López
Chalaba (2011年) ※with Majid Bekkas、Ramón López
『“アウト・オブ・ザ・デザート”ライヴ』 - Out of the Desert Live (2011年) ※with Majid Bekkas、Ramón López、hr-Bigband
Wo!man (2011年) ※with アーチー・シェップ
Lifeline (2012年)
Voodoo Sense (2013年) ※with アーチー・シェップ
Moscow (2014年) ※with Alexey Kruglov
Beauty and Truth (2016年)
Love & Peace (2018年)
Piano Works XIII: Melodic Ornette Coleman (2019年)

主な参加アルバム（一部）

ゲイリー・バーツ、リー・コニッツ、ジャッキー・マクリーン、チャーリー・マリアーノ : 『アルティッシモ』 - Altissimo (1973年)
ズビグニェフ・ナミスオフスキ・カルテット with ヨアヒム・キューン : Live at Kosmos, Berlin (1965年)
ロルフ・キューン・グループ : 『ザ・デイ・アフター』 - The Day After (1972年)
ロルフ・キューン・グループ : Connection 74 (1974年)
アソシエイション P.C. (ピエール・クルボワ) & ジェレミー・スタイグ : 『ママ・クク』 - Mama Kuku (Live) (1974年)
ズビグニェフ・セイフェルト : 『マン・オブ・ザ・ライト』 - Man of the Light (1976年)
ラリー・コリエル - フィリップ・カテリーン - キューン : Live! (1980年)
* ジョー・ヘンダーソン : 『ブラック・ナルシサス』 - Black Narcissus (1976年)

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