ロンディニウム

ロンディニウムは、ローマ人によって建設された古代ローマ帝国の都市であり、今日のロンドンのルーツとなっています。紀元1世紀頃、ローマ人がブリテン島に侵入した際に、テムズ川北岸に位置するこの地を選び、城壁を築き、橋を架けて都市を建設しました。その名は先住民族であるケルト人の言葉で「沼地の砦」を意味し、多様な民族が共存する活気ある都市として、ブリテン島南部の商業の中心地となりました。

ロンディニウムの歴史

ロンディニウムの建設以前にも、周辺にはケルト人の集落が存在していましたが、ロンディニウムはローマ帝国によって初めて大規模に開拓された都市でした。建設には17年の歳月が費やされました。ローマと同様に、テムズ川という水運に便利な立地も、都市が発展する上で重要な役割を果たしました。

しかし、建設から間もない紀元61年頃、ブーディカ率いるイケニ族の襲撃により、ロンディニウムは焼き討ちにあいました。それでもローマ人は直ちに都市の再建に着手し、約10年後には復旧を遂げました。その後、ロンディニウムは急速に成長し、2世紀にはブリタンニアの州都として、その繁栄の頂点を迎えました。当時の人口は約6万人で、大聖堂はアルプス以北で最も大きなものの一つでした。

都市には、広場、円形劇場、浴場、駐屯地など、ローマの都市に特徴的な施設が整備されていましたが、多くの建物が木造であったため、何度か大規模な火災に見舞われました。3世紀以降は景気が悪化し、都市の成長は停滞しました。


2世紀末から3世紀初頭にかけて、ローマ人はロンディニウムを囲むように「ロンドン・ウォール」という防御壁を建設しました。全長約3km、高さ6m、厚さ2.5mのこの壁は、都市を守るための重要な役割を果たしました。3世紀後半にはサクソン人の海賊による襲撃が頻発したため、川沿いにも防御壁が築かれました。これらの壁には門が備えられ、伝統的な7つの門のうち、6つはローマ時代に起源があります。


5世紀になるとローマ帝国の衰退は加速し、401年には西ローマ皇帝ホノリウスが軍団の兵士を本国に引き上げ、407年にはコンスタンティヌス3世が残りのローマ軍団を連れて大陸に渡ったため、ロンディニウムに残されたのはブリトン人とローマ系住民だけとなりました。410年にはホノリウスがブリタンニアの防衛を住民に委ねる通達を出し、ここにローマによるブリタンニア統治は事実上終焉を迎えました。その後、ロンディニウムはテムズ川に面しているという立地条件から、サクソン人の襲撃に度々晒されるようになりました。


450年から500年の間に、住民はロンディニウムを放棄し、生き残ったブリトン人とローマ系住民は一部が侵略者に同化し、多くはウェールズへと逃れていきました。600年頃にサクソン人がテムズ川沿いに新たな定住地を築いた際にも、彼らは石造建築の維持・補修方法を知らず、木造建築を好んだため、廃墟となっていたロンディニウムを再建することはありませんでした。現在のコヴェント・ガーデンに当たる場所に集落を築き、ロンディニウムはそのまま放置されたのです。このように、ロンディニウムはローマ帝国の栄枯盛衰と、その後のロンドンへと繋がる歴史を語る上で、重要な存在となっています。

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