ロンドン地下鉄

ロンドン地下鉄：世界最古の地下鉄の深層

ロンドン地下鉄は、1863年の開業以来、イギリスの大都市ロンドンを走り続けている世界最古の地下鉄です。メトロポリタン鉄道のパディントン駅からファリンドン駅間の最初の区間開業から始まり、現在では270駅以上、総延長400kmを超える巨大なネットワークへと発展しました。地元住民からは「the Underground」または愛称として「the Tube」と呼ばれ親しまれています。これは、トンネルの形状に由来する愛称です。

歴史：蒸気機関車から現代まで

世界初の都市内地下旅客鉄道として誕生したロンドン地下鉄は、当初は蒸気機関車を使用していました。そのため、煤煙による環境問題や火災の危険性など、課題も多くありました。その後、電気動力化やシールド工法の導入によって、より安全で快適な地下鉄へと進化を遂げました。

20世紀に入ると複数の鉄道会社が別々の路線を運営する状態となり、乗換の不便さや経営の非効率性が問題となりました。そこで、アメリカ人実業家チャールズ・ヤーキスによる買収と再編を経て、ロンドン地下電気鉄道会社が設立され、運営の統合が進められました。

第二次世界大戦中は、ロンドン空襲の際に防空壕として利用されるなど、市民生活に深く関わる存在となりました。戦後も、人口増加に伴う輸送需要の高まりに対応するため、新しい路線の建設や既存路線の延伸などが進められてきました。2005年には、テロ事件に見舞われるという歴史的な出来事も経験しました。

路線と特徴：浅い線と深い線

ロンドン地下鉄の路線は、開削工法で建設された比較的浅い路線と、シールド工法で建設された深い路線の2種類に大別されます。浅い路線は初期に建設されたものが多く、車両限界もイギリス標準です。一方、深い路線はトンネル直径が小さく、車両も小型です。これは、建設当時、大断面のシールドマシンが存在しなかったためです。

ジュビリー線は全ての路線と接続する唯一の路線として知られており、交通の要となっています。また、アーセナル駅はロンドンのサッカークラブにちなんで名付けられた、珍しい駅です。

運賃システム：ゾーン制とICカード

ロンドン地下鉄では、ゾーン制と時間帯別運賃を採用しています。市内中心部からの距離に応じて9つのゾーンに分けられており、中心部に近いほど運賃が高くなります。ピーク時間帯には、さらに運賃が高くなります。

紙の切符は時間帯に関わらず均一料金ですが、オイスターカードと呼ばれるICカードを利用すると、大幅な割引が受けられます。オイスターカードは、利用促進のために紙の切符よりも安価に設定されており、1日の利用料金には上限が設けられています。

トラベルカードと呼ばれる乗り放題の切符もあり、利用できるゾーンや有効期間によって料金が異なります。バスやナショナル・レイルなどの他の交通機関も利用できる、お得な切符です。

車両・軌道・電化方式：4レールシステム

軌間は標準軌（1,435mm）を採用しています。電化方式は、世界的に珍しい「4レールシステム」です。走行レールとは別に、2本の電源用レールがあり、それらの電圧差を利用して列車が走行します。

設備とユニークな文化：エスカレータのマナーなど

一部の駅は地上構造物を持たない完全地下駅で、古い駅の通路は天井が低く狭くなっている場所もあります。ロンドン地下鉄のエスカレータは、世界的に見ても最長級であり、右側に立ち、左側は追い越し用に空けるというマナーが定着しています。

冷房設備は比較的近年になって導入が始まったばかりで、過去には猛暑時に大きな問題となりました。また、多数のネズミが生息しており、地下鉄のユニークな特徴となっています。

ロンドン地下鉄で使われているジョンストン体や、ブルズアイと呼ばれるロゴマークは、デザイン史に残る名作として知られています。近年では、駅構内にクラシック音楽を流す試みが行われたり、香水の使用実験が行われたりなど、様々な工夫がなされています。駅の中には日本語表記のある駅も存在します。

ロンドン地下鉄は、単なる交通機関を超えた、ロンドンの歴史と文化を象徴する存在となっています。

もう一度検索